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「バズれば幸せになれるって本当ですか?」――昨今の音楽業界におけるリアルな事情

2024.5.1

映画『バジーノイズ』

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昨今の音楽業界に通じる『バジーノイズ』のリアルさ

そもそもSNS関連の宣伝や、SNS発アーティスト / クリエイターを紹介するときなどによく使われる「1本の動画で人生が変わった!」というフレーズは、あまりにも都合よく過程が端折られすぎていると思っている。「1本の動画で人生が変わる」なんて、はっきり言って幻想だ。

「バズ」は、ひとつの扉を開けただけに過ぎない。次のステージでまた、自分の実力や人間性、思考力、運などが試される。時に悩みながら、「好きを続けるって難しい(映画内のセリフ)」と葛藤しながら、一枚ずつ扉を開けていくことでコマを進めるしか活動や人生を動かしていく方法はない。SNSからヒットし今メインストリームにいるアーティストたちは皆、そうやって自分の力で一枚ずつ扉を開け続けてきた。「1本の動画がバズって人生が変わる」という安直な描写がなされていないところが、まず私が『バジーノイズ』に感じたリアルさだった。

川西拓実(JO1)が演じる主人公の海野清澄。友達も恋人も何もいらない。頭の中に流れる音を、形にできればそれでいい。そう思っていた清澄は、DTMでひとり作曲と演奏に没頭する日々を送っていた。映画内で清澄から生まれるすべての楽曲は、藤井風の全楽曲、iri、SIRUP、Awesome City Clubなどのプロデュースで知られ、映画音楽も手掛けるYaffleがミュージックコンセプトデザインとして参加している。

アーティストやクリエイターにとって、「バズ」は幸せなのだろうか? 人と関わることを恐れて、ひとりで手を動かすだけでいいと思っていた清澄にとって、思わぬバズは必ずしも喜べるものではなかった。バズると、自分にとっての幸せとは異なる扉が開くことにもなる。そもそも、自分にとっての幸せが何かをわかりきっていない状態で扉が開いてしまうこともある。

「表舞台に出る準備をしていなかったのに、表舞台に立つことになってしまった」という状況の清澄もリアルに見えた。昨今はSNSのアルゴリズムの発達によって無名の人が突然大きな注目を集めることがあり、本人の心の準備ができていなくても、世間から忘れられない内にデビューや楽曲リリースをさせてしまうケースが増えた。アーティスト本人が大勢の人と関わりながら表舞台や音楽シーンのメインストリームに立つ覚悟ができていないと、いい成果を生み出し続ける活動はできないし、メンタルを病むことだってある。そうやって枯れてしまった才能も、三流の大人に潰された才能も、これまで実際に業界の中で見てきた。

「歌に自信があるわけではないけどなんとなく歌ってみた」という想いでSNSに動画を投稿し、あれよあれよとプロの歌が求められる場に立つこととなって、一生懸命奮闘し自分なりの表現方法を磨いているアーティストたちも今の音楽シーンにはたくさんいる。「ただ普通に暮らして、音楽を鳴らしたいだけ」だった清澄が、バズをきっかけに人と関わりながら仕事をするようになってさまざまな悩みを抱え、歌にまでトライする姿は、そういった人たちの戦いと重って見えた。

桜田ひよりが演じた岸本潮は、好きなこともやりたいこともなく、他人の「いいね」だけを追いかけて生きてきた。そんな潮が初めて心を震わせたのが、下の部屋から聴こえてきた「寂しくって、あったかい」清澄の音楽だった。

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