INDEX
「能動的にイベントに参加する感覚や、価値観の違いに接続する感覚を取り入れるようにしている」(和)
昨年の『Bonna Pot』開催地となった西伊豆・オートキャンプ銀河は、綺麗に整備されたサイトとして、キャンプ利用客からの評判も良いキャンプ場だ。2021年に同会場で開催した際も、訪れたオーディエンスからの評価は高かったという。
昨年ダンスフロアが用意されたのは、オートキャンプ銀河最上段の星見サイトエリア。ここでは芝生が一面に広がり、大きくひらけた空を眺められる。芝生に寝転びながら、美しい朝日も星が瞬く夜空も拝めるという、和の理想を追求するには絶好の空間だ。
和は「このもともと美しい場所の魅力をどうやってさらに引き出すか、ということを念頭にプランしました」と昨年の開催を振り返る。
和:過去の開催時も同様ですが、まずは会場のダンスフロアの位置で、イベント当日の日の入りと日の出のタイミング、そして太陽と月の動きをARアプリで正確に測定します。自然の流れを汲んだシチュエーションを想像しながらタイムテーブルのスロットを作り、それにハマるようなDJの方々にオファーとイメージの共有をしています。
なので、前回はオートキャンプ銀河の星見サイトエリアで、どういう時間帯にどういう音楽を聴きたいのかを意識しながら組んでいきました。nø¡Rに2日目のオープンを頼んだり、BINGさんに2日目の夜明け前から日の出直前の時間帯に出演をお願いしたり、クロージングの専門家であるスコットにロングセットで最終日を締めてもらったり。この3人には最初に特定の時間帯に出演してもらうことを意識していました。
また会場作りとしては、ダンスフロアから見える位置に自然の美しさを阻害するような見栄えの悪いものを置かないことを大切にしています。例えば、運動会テントやイントレなどは徹底的に置かないようにしています。
その上で、照明やデコレーションなどを設置する際はその場にある美しさと共存しながら、元来の魅力をより引き出せるようなものを配置するように意識しています。


開催当日はダンスフロアの周辺や導線にて、参加者たちが持ち寄ったアート作品やアクセサリーを販売する店舗も見受けられた。開催発表時のステートメントでも伝えられている通り、『Bonna Pot』では芸術作品や創作物、装飾やパフォーマンスなど、作品の持ち込みおよび展示も推奨されている。ふと立ち寄る参加者たちと、出展者との交流がいくつも生まれていたのが印象的だった。
加えて、会場内の飲食ブースではベジタリアン向けのオプションやハラル対応の店舗などが出店。こうした来場者の嗜好や国籍、信仰への配慮を感じられる対応にも、多様な価値観を受け入れる運営側の姿勢が見て取れた。

和はこれらの取り組みの背景について、「能動的にイベントに参加する感覚や、文化的な違いに接続する感覚を少しでも取り入れたかった」と語る。
和:一見、アンダーグラウンドで参加しにくいイベントに見えるかもしれませんが、僕らとしては音楽が好きで他者に敬意を持って接せる人たちには誰でも来てほしいと思っています。さまざまなバックグラウンドや考えがある人たちに参加してほしい。そういう意識はデヴィッド・マンキューソの哲学に影響を受けています。デヴィッドの「色んな人がいた方が面白い」というピュアな価値観には共感しています。
他にもチケットを買うお金がない人たちには、ボランティアとして参加してもらうことを推奨しています。参加にあたって、できる限りバリアを作りたくない。誰もが遊びにきやすい環境を作れたらと思っています。
もう一つ心がけていることは、イベントに参加している人たちと演者の関係性をできる限りフラットにすること。演者を祭り上げるような見え方にはしたくないんです。だからダンスフロアの高さと同じになるようにDJ /ライブブースの底上げもしていませんし、照明もなるべくDJだけをフォーカスするような当て方にしないようにしています。


これまで見てきたような音楽だけにとどまらないインスピレーショナルな表現は、両名が音楽にあふれた生活の中で刺激を受けてきた原体験にもとづいている。「特に2000年代初頭の『LIFE FORCE』(※)から受けた影響はすごく大きい」と言う2人。『LIFE FORCE』で経験した共通の原体験についてこう話す。
※東京を中心に1993年から開催されるウェアハウス / オープンエアーパーティー。PAエンジニア・浅田泰がサウンドデザインを手がけることでも知られる。
和:レジデントDJだったニック・ザ・レコード(Nick The Record)のプレイと浅田さんの音響が特に記憶に残っています。普段ニックはディープハウス中心のDJなんですけど、当時の『LIFE FORCE』ではラテンやアフリカンのようなワールドミュージックなどもかけていました。ハウスやテクノと混ぜたら、スカスカに聴こえるリスクもあるようなジャンルでもあると思うんですが、そういった曲でも浅田さんの音響のもとで聴くとちゃんと最高のダンストラックとして機能していたんです。
同じDJのプレイであっても、音響によって聴こえ方が全く変わってくる。それにDJ側も、浅田さんの音響への信頼があるから幅広い音楽がプレイできるわけです。
こういった体験から、『Bonna Pot』でもDJが普段ダンスフロアでかけられないような幅広い曲がプレイしたくなる音響環境を作れるよう意識しています。
藤田:音はもちろんですが、オーガナイザーたちが意識している設計そのものにも影響を受けています。
『LIFE FORCE』はまずフロアが分煙になっていて、しかも運営側が決めたわけじゃなく、参加者たちが勝手に分煙している。そういうことにすごく感激しました。そういう能動的な思考をベースにした自由さを許してくれる空間なんですよね。自由さと秩序が同居し、音楽のあり方や豊かさとあいまった音響の心地よさからくる影響力を発揮している空間でした。そんな空間がもたらす精神性や協調性に大きく影響され育ててもらった記憶があります。
こういう側面は『LOFT』にもあります。子供が鬼ごっこしていたり、おじいちゃんとおばあちゃんがベンチに座ってずっと会話していたり。ある時間になると会場内にビュッフェが並んで、ダンスフロアから人がいなくなっちゃう。そんなフリーフォームなムードに影響を受けていますし、音楽の幅を広げることもその自由さにつながっていると思っています。『LOFT』もさまざまな音楽が優れた音響によって、ダンストラックとして機能していたパーティーです。