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2025年下半期の注目作
―本日は色々とお話いただきましたが、お二人がそれぞれ上半期で一番お好きだった作品を挙げてください。
長内:『けものがいる』ですね。「体験したことのない体験をさせてくれること」が映画を観るときに大切にしている部分なので、本作もあまりに自由な映画の作りをしていることに惹かれました。レア・セドゥの無双状態な活躍が続く中でも、飛び抜けてすごいレア・セドゥが観られたし僕にとっては衝撃的な1本でした。
木津:アラン・ギロディ特集で上映された1本の『ミゼルコルディア』です。さきほどお話したように、「フランス映画がおもしろい」というのはあるけど、アラン・ギロディに関してはそれだけでもない。世界を見渡しても特異な作家で、映画を観終わったあとも、何の映画かわからないんですよ。でもそれが映画のおもしろさを毀損していなくて、「これまで観たことのない映画を観た」という感覚がありました。
あとアルゼンチンの映画で『トレンケ・ラウケン』も、これまで観たことのない映画という点でとてもおもしろかったです。一応ミステリー映画という立て付けですが、4時間の中でどんどん新たな謎が出てきて、全く想像がつかないところに引きずり込まれていきました。
―お二人とも、やはり変な映画ですね(笑)。
木津:そうですね。今回はさんざん、ユニークな作品を受容する土壌が整えられた話をしてきましたが、反対に『カーテンコールの灯』(ケリー・オサリヴァン、アレックス・トンプソン監督)みたいな、シンプルな良き人間ドラマを描いたインディペンデント映画っていうのをどう紹介しようかと頭を抱えることが増えました。
長内:それは本当にわかります。アメリカ映画って、普通の人たちの人生の機微を描いてきたはずなのに⋯⋯。僕も見過ごされて終わるにはもったいない良い映画が多かったと思います。『HERE』(ロバート・ゼメキス監督)や、『ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今』(マイケル・ウォレス監督)も普遍的な人生賛歌でした。

木津:上半期の長内さんのポッドキャストベストは『ブリジット・ジョーンズの日記』回でしたよ。めちゃ笑いました! 今作に関しては、完璧じゃなくてもいい女性像が、現在の若い女性たちにも響いてるみたいな分析があるらしくて。時代を巡るなと、しみじみ思いました。
―最後に、下半期の期待作品を教えて下さい。
木津:ポール・トーマス・アンダーソンの『ワン・バトル・アフター・アナザー』がどれだけ盛り上がるか、一番気になります。あと『私たちが光と想うすべて』(パヤル・カパーリヤー監督)というインド映画は、昨年のカンヌ映画祭でグランプリを撮った作品で、30〜40代の女性監督が撮った映画というここ数年の流れがインド映画からも出てきたので、注目してほしいです。さきほどから名前があがっていたA24の『愛はステロイド』『テレビの中に入りたい』は、クィア映画の進化系として注目したいです。
長内:下期はやっぱ同じくポール・トーマス・アンダーソン。僕は北米で相当ヒットすると予想を張っているんですよ。
日本でいつ公開されるかわからないですが、セリーヌ・ソン監督の『Materialists』と、2025年の『カンヌ映画祭』でも話題になったヨアキム・トリアー監督の新作『Sentimental Value』が楽しみですね。あとホラー映画の『Weapons』。『バーバリアン』を撮った、ザック・クレッカーという監督の新作で、アメリカで8月に公開されます。
―下半期も楽しみですね。ありがとうございました!
Podcast『長内那由多のMOVIE NOTE』
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