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王道の娯楽映画で勝負するビッグバジェット作品
―日本でもブロックバスター映画ではない『教皇選挙』(エドワード・ベルガー監督)などが盛り上がりましたもんね。
木津:そうですね。ただ『教皇選挙』のヒットに関しては少し複雑な思いもあります。昨年の『シビル・ウォー』(アレックス・ガーランド監督)と同様に、現実の社会問題、政治と地続きのものが日本ではヒットしやすいのだなと感じました。

木津:もちろんローマ・カトリック教会の映画ではあるけれど、現在の政治情勢を反映した作品なので、トピックのうまさがあったんだろうなと思います。描かれている政治状況って、みんな世界で共有できる分断が前提になっていますし、世界がこれほど荒れている写し鏡でもあるなと感じました。
長内:僕は、『教皇選挙』があれだけヒットしたのはよかったと思っていて。日常で映画の話題になると必ず名前が出てくるレベルでした。久しぶりに大衆的なヒットをした洋画ではないでしょうか。あと、僕は『F1® / エフワン』も大ヒットするんじゃないかと思っていて。
木津:僕も日本でヒットすると思います。ただ、僕の場合は、あの作品が悪い意味ではなくコンサバ寄りだからなんですけどね(笑)。
長内:なるほど。僕は、1980年代終わりから1990年代頃にF1中継を見ていた人たちが一番最初に盛り上がって観に行ってくれるだろうなと思っています。『トップガン マーヴェリック』(ジョセフ・コシンスキー監督 / 2022年)のときみたいな、ノスタルジーも入りつつ、初動から裾野が広がればいいですね。
僕はF1の知識はなかったけど、初めてチームスポーツなんだと認識して。ただ対戦相手が一切描かれていないところがおもしろいなと思いました。今のハリウッド大作映画の一種の王道が、「誰かを敵にしない」「敵を描かない」ということなのかな。いろいろな人たちが1つのミッションのもとに一致団結することが、今は大切にされているんだと思いました。
木津:僕はウォーキズムを通過した若い世代がどうリアクションするかが気になっていますね。マッチョなところはあるけれど、それをちゃんとやりきっているから、嫌味にならないんですよね。
長内:ブラピにしろ、トム・クルーズにしろ、意識的にかつての王道ハリウッド娯楽映画を作ってやろうという思いがあるのかなと感じます。昨年『ウルフズ』(ジョン・ワッツ監督)を振り返ってもそうで。それをトム・クルーズは20年以上やっているんですよね。
木津:まさに、さきほど言っていた作家の映画、インディペンデント映画の台頭を確実に意識する中で、上の世代のスーパースターがかつて王道とされたような娯楽作を作ろうとしているのはおもしろい対比かもしれないですね。