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【25年上半期振り返り・映画/ドラマ】作家性の強い映画を楽しむ土壌が育ちつつある

2025.7.14

#MOVIE

『ANORA アノーラ』『ブルータリスト』『教皇選挙』『サブスタンス』など、「アカデミー賞」などの賞レースで話題になった作品が数多く劇場公開された2025年の上半期。この半期を長内那由多と木津毅という2名の映画ライターが振り返る。話題となった作品や、日本における映画受容から、映画の現在地を探ってみた。

※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

作家性の強い映画の盛況と、A24の功績

―ざっくりとこの半期を振り返ると、いかがでしたか?

木津:2024年下半期の対談では、目立つ作品が多くなかったみたいな話をしていたと思うんですけど、2025年上半期はとにかく観るのに忙しかったです。

賞レースで注目された作品が上半期に集中して公開されるので、毎年忙しい傾向はあるんだけれども、今年は特に豊作でした。

木津毅(きづ つよし)
ライター。映画、音楽、ゲイカルチャーを中心に各メディアで執筆。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)がある。

長内:僕も同じで、観るべき作品が多かったなと思います。さらに6月に入って『罪人たち』(ライアン・クーグラー監督)『F1®/エフワン』(ジョセフ・コシンスキー監督)『28年後…』(ダニー・ボイル監督)などメインストリームの夏休み映画も始まって三者三様のおもしろさでした。ようやく2025年が温まってきたなって思います。

長内那由多(おさない なゆた)
映画 / 海外ドラマライター。東京の小劇場シーンで劇作家、演出家、俳優として活動する「インデペンデント演劇人」。主にアメリカ映画とTVシリーズを中心に見続けている。

―観るべき作品が多かったということですが、上半期は作家性の強い作品が目立っていた印象です。

長内:『米アカデミー賞』で『ANORA アノーラ』(ショーン・ベイカー監督)が「作品賞」を取ったことで、インディペンデント作品の強さが目に見えてわかりましたよね。それは、ハリウッドメジャーが弱くなってきた結果でもあると思います。

アカデミー賞作品賞『アノーラ』レビュー 賛否のラストをあなたはどう解釈する?」を読む / ©2024 Focus Features LLC. All Rights Reserved. ©Universal Pictures

長内:近年、ストリーミングプラットフォームが多様化して、配信で幅広くインディペンデント作品に触れられるようになりました。裾野が広がったせいもあるんじゃないかなって思うんですよね。

その結果、観客の側も育ってきている印象があります。『ブルータリスト』(ブラディ・コーベット監督)や『ノスフェラトゥ』(ロバート・エガース監督)みたいな作家の個性が強い映画が北米でヒットしたっていうし、いい兆しだなと思ってますね。

アカデミー賞10部門ノミネート『ブルータリスト』が映し出す創造の光と影」を読む / © DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. © Universal Pictures

木津:今年、チャーリーXCXの『Coachella』ステージで印象的だった出来事があって。2024年、「Brat Summer」というトレンドを生んだチャーリーXCXが「次は違う夏もいいんじゃない?」みたいなメッセージとともに、他のインディーミュージシャンの名前とサマーを繋げてバックスクリーンに投影していました。その中には、作家や映画作家の名前もネームドロップされていて。ダーレン・アロノフスキーみたいなキャリアのある監督の名前から、最近のアリ・アスター、セリーヌ・ソンの名前もあったり。それを見て「今ってチャーリーXCXのステージを見るような若者に響くようなヒップなものに、インディーの映画作家がなってるんだ!」って驚いたんですよ。

―北米の若者たちにとっては、イケてるカルチャーなんですね。

木津:その点で、A24の存在意義って本当に大きかったのではないかと感じます。最近は一時期より勢いが落ちているとか、ネオンの躍進が強いと言われていますが、A24が「作家の映画」をおもしろいもの、しかもかっこいいものとしてパッケージしたのは戦略としてうまいだけでなく、若い観客を育てたんだと思います。

長内:A24ブランドは、日本でも確立されましたよね。予告や番宣でも「A24の〜」が入るし、A24特集が組まれたりもする。今年の下半期には『愛はステロイド』(ローズ・グラス監督 / 2025年8月29日公開予定)、『テレビの中に入りたい』(ジェーン・シェーンブルン監督 / 2025年9月26日公開予定)も公開が予定されていますが、邦題の付け方も思い切りがよくなってきたのを感じます(笑)。北米の勢いがさらに日本にも波及してくれたらいいですね。

木津:長内さんが挙げてくれた2本とも変な映画であることは間違いないんですよ。単純に「おしゃれなもの」というにはちょっと奇妙すぎる作品をA24はちゃんと届けていて、おしゃれ消費で終わらないクセの強さ、ユニークさがA24作品にはあるなと改めて感じました。

―娯楽作ではあるけれど、同じく作家性が強い『罪人たち』もヒットしましたね。

長内:本来、いろいろなサブテキストが必要な『罪人たち』が日本でも盛り上がるのは意外でした。これほどハイコンテキストな作品がより多くの人に受け入れられていて、良い傾向ですよね。

ブラックスプロイテーション(黒人観客層向けに大量生産された娯楽映画。1970年代に数多く作られた)の形式を用いて、黒人の歴史、文化を背負う作品をつくっている。ジャンルミックスでもあるし、ライアン・クーグラーのシネフィルっぽい娯楽アクションだなと思いました。北米での大ヒットは、そうしたリテラリーの高い観客が育ってきたからかもしれないですね。

木津:「シネフィルっぽい」という感想はおもしろいですね。たしかにブラックヒストリー、ブラックカルチャーが配置されていてハイコンテクストですが、バカっぽいところもあるじゃないですか? 音楽のかかり方も大げさだし。それも映画に対する前提知識が必要とも言えるし、解説動画的なものとも相性がいいから、映画オタクっぽいと言われて「なるほど」と思ったんですけれど、同時に映画オタクだけに閉じていない豪快さが成功のポイントだったのかなと感じます。

長内:そこがライアン・クーグラーの大衆作家としての腕っぷしの強さですよね。『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)、『ブラックパンサー』(2018年)から続いて、人種を超えて観客の心を掴むパワーがオリジナル脚本の『罪人たち』で結実したのかなと。

木津:最初に注目された『フルートベール駅で』(2013年)が2010年代にBLMの文脈で受け止められたけど、その時代を経て、より豪快な娯楽作を作れるようになった。それがこの10年、15年の映画文化の進化だなと感じました。

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