INDEX
それぞれの立場で行動し葛藤する、魅力的な脇役たち
キャシアンらを追う帝国側の登場人物たちも、キャラクターが粒立っている。
帝国の情報機関で働く捜査官デドラ・ミーロ(デニス・ゴフ)は、散発する帝国物資の盗難に関連性があることを勘繰り、反乱活動が組織化されてきているのではないかと推測する。自身の管轄外の事件についても調査を行いたい彼女に対し、上司や同僚は、出過ぎた振る舞いだと叱責し聞く耳を持たない。
ミーロを中心としたシークエンスは、組織の中で働く人々の軋轢や政治を描いたサラリーマンドラマでもある。彼女が女性であるがゆえの出世の困難さも示唆される(遠くの銀河にも性差別はあるようだ)。また、帝国で働く公務員の多くは、もともとは共和国の公務員であったはずである。いわば勤務先が買収されて親会社が変わったようなもので、生活がかかっている多くの勤め人は、方針転換に対応しながら与えられた職務を全うせざるを得なかったはずだ。適応する中で、次第に帝国の思想に蝕まれていきもしただろう。元々、「SW」シリーズの生みの親ジョージ・ルーカスは、銀河帝国をナチスになぞらえてデザインした(※)というが、本作は帝国の「普通の人々」の姿を描くことで、その世界観をより立体的なものにしている。
※ルーカス本人との「密な連携」によって記され、ルーカスフィルム公認の書籍として出版されたNancy R. Reagin, Janice Liedl編著『Star Wars and History』には、「ストームトルーパー」という名称や将校のコスチュームなど、銀河帝国の造形に於いてナチスがどのように参照されたかが記されている。

保安会社に勤める若者シリル・カーン(カイル・ソラー)は、同僚の不審死の調査に当たる中で、キャシアンの存在にたどり着く。彼を捉える機会を得て勇んで向かうものの、戦闘の経験などないシリルは、実際に発生した捕物・銃撃戦の前にはなす術がなく、彼を取り逃してしまう。この失態で職を追われたシリルは、過干渉な母親に世話された再就職先で単純労働に従事しながらも、件の事件に執着し続ける。
シリルの生真面目さと幼稚さ、ルーティーンワークと異なる事態の発生にテンションが上がってしまっている様子、あるいはその母子関係には、可笑しさと悲哀の両方が滲んでいる。「正義」に取りつかれた彼とその周囲には、弱者が権力と自己同一化することで自尊心を保つ「ネット右翼」的な心性も見え隠れする。それでいて、どこか憎めないキャラクターだ。
