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the cabs再結成の衝撃、残響レコードの再評価
ー2010年代の日本のバンドで、現在のシーンに対する影響が大きいバンドは誰だと思いますか?
辻:それこそthe cabsじゃないですか。「聴いてください」とか「取り扱ってください」って持ってきてくれる若い人の音源を聴いたときに、the cabsの影響受けてるなってバンドすごく多くて。
ー彼らは2013年に解散をしたわけですけど、今年1月の再結成発表に対するリアクションは非常に大きかったですよね。
中川:やってないうちに、幻想が高まっていくんじゃないですかね。アメフトもそうじゃないですか。やってないうちに、語り継がれて、大きくなる。NUMBER GIRLもそうで、僕も高校生のときに聴いてたけど、今は「下北のバンドマン全員NUMBER GIRL好き」みたいな感じになってるのが不思議で、「そんなみんながみんな好きなバンドじゃなくなかった?」みたいな。やってない期間があって、観たくても観れなかったバンドが再結成すると、神格化される流れはあるかなって。
辻:それこそ今はSNSがあるから、よりそういうのが広まるんだろうね。the bercedes menzとかもさ、SNSですごい盛り上がって、あれはバンド側にはコントロールできないじゃないですか。the cabsも本人たちが一番びっくりしてるんじゃないかな。

辻:あと仲間内でよく話してたのが、the cabsが活動を続けてた世界線があったとしたら、『ROCK IN JAPAN』みたいなフェス文化はなかったんじゃないかって。the cabsがいなくなったタイミングから4つ打ち文化になって、フェスで暴れる文化になったじゃないですか。でもそのままthe cabsが人気になってたら、あのフェス文化は生まれたのかなって。
ーthe cabsが続いてたらKEYTALKがどうなったかはわからないし、indigo la Endよりもゲスの極み乙女。が盛り上がったかどうかもわからない(※)。
※the cabsの首藤義勝は2007年にKEYTALKに加入して、両方のバンドで活動していたが、2013年のthe cabs解散以降はKEYTALKに専念。川谷絵音を中心としたindigo la Endはオルタナやポストロックから影響を受け、the cabsとも近いシーンにいたが、先にブレイクしたのは後で結成したゲスの極み乙女。だった。
辻:そういうことです。
ーでも面白いですよね。そこの世界線が失われたと思ったら、実はつながっていた。それこそ今はthe cabsだけじゃなくて、残響レコード(※)自体が再評価されてる感じもするし。
※2004年設立のインディーズレーベル。9mm Parabellum Bullet、People In The Box、cinema staff、the cabsなどを輩出。またte’をはじめとしたインストバンドが多数所属して、日本のポストロックブームにも大きく関与した。
辻:あんまり残響のことは言いたくないけど(笑)。
中川:僕も高校生のときは残響レコードめっちゃ好きでした。あとはもちろんtoeとかも好きだったし、そういうバンドが今も続けてくれてるのは大きいですよね。僕は海外のバンドを呼んだり、自分のバンドでも海外によく行くんですけど、「日本のバンド誰が好き?」って聞くと、toeとenvyの名前は必ず出てきて、そういうバンドが音源を出し続けてるから、今につながってるんだろうなって。
辻:toeとenvyは相当でかいよね。僕が日本に来た海外のバンドと話をしても、やっぱりその2バンドは絶対出てくる。航くんは最近も海外のバンド呼んでたよね?
中川:Ostracaというバンドを東名阪3本やって、昨日空港に送ってきました。
辻:日本のバンドが好きなの?
中川:そのメンバーはHeaven In Her ArmsやCorruptedが好きで、Sans Visageも知ってました。あと中国にすごいNUMBER GIRLが好きなバンドがいて、“YES,We Love Number Girl”って曲があるんですよ(笑)。
ー海外のことはまた後で聞きたいと思うんですけど、2010年代の日本でいうと、THE NINTH APOLLOやKiliKiliVilla(※)のようなインディレーベルの影響はどう思いますか?
※THE NINTH APOLLOは2004年に設立され、My Hair is Bad、さよならポエジー、KOTORIなどをリリース。KiliKiliVillaは2014年に設立され、NOT WONK、SEVENTEEN AGAiN、SUMMERMANなどをリリース。
辻:KOTORIはアメフトっぽいフレーズとか、このバンドに憧れてるっていうのがわかりやすくて、僕はそれがすごくいいなと思いました。僕らはそれをやるのを恐れてた世代というか、「結局そのバンドが好きなんでしょ?」と言われないように、どうにかこねくり回してる感じだったけど、1個下の世代は周りが言うことを気にしないで、純粋に好きな音楽を鳴らしてる気がして、それはすごくいいなって。
中川:SEVENTEEN AGAiNが主催する『リプレイスメンツ』(※)はめっちゃすごいなと思います。クラブチッタが満員になって、そこにちゃんと若い子たちが集まってて、リスペクトされてるのはすごいなって。
※SEVENTEEN AGAiN主催のイベント。2021年からはクラブチッタ川崎で開催され、「Name Your Price」=投げ銭方式も話題に。

辻:バンド主催のイベントが大きくなるのはいいですよね。それこそKOTORIもそうだし、TENDOUJIもですけど、バンドマンがみんなで盛り上がってる感じは理想だなって。コロナ以降は対バンイベントにお客さんが入りづらくなってる感覚があるんですよ。対バンでお客さんを入れるのはすごく難しいけど、それが一番やりがいがある。
中川:ワンマンの方が入りやすい?
辻:そうそう。
ーワンマンかフェスか。その中間がなかなか難しい。
辻:スリーマンが一番難しい。本当に合う3バンドじゃないとお客さんがなかなか入らなかったりするから。今年の5月にあった、ひとひら、ルサンチマン、シネマのスリーマンはバンド主催ではなかったんですけど、世代を超えた組み合わせで渋谷WWWが即完したのは嬉しかったですね。
中川:僕はワンマンも嬉しいけど、そもそも対バンが好きで。バンドとバンドがつながったり、お互い新しい発見があったり、そういうのがいいなって思うんですよね。
ーアーティスト主催フェスでいうと、シネマが岐阜で開催している『OOPARTS』も毎年オルタナなラインナップですよね。

辻:うちらはずっと年上のバンドとやることが多くて、でも続けていく中でだんだん下のバンドともやるようになって、それこそKOTORIとかAge Factoryとかと、コロナ前まではよく一緒にやっていて。最近はそこにさらに下の世代を上手く混ぜて、どうやって流れを作れるか考えることが増えた気がしますね。