コロナ禍によって大きなダメージを受けた2020年代初頭のライブハウスシーン。しかし、そこから息を吹き返した2025年現在では、エモ、ポストロック、シューゲイザーなどの影響を感じさせるオルタナティブなロックバンドが多数頭角を現し、新たなシーンが形成されている。彼らはどんなバンドに影響を受け、どんな精神性で活動を続け、どんな未来が待っているのだろうか?
そんな現在のシーンを俯瞰するべく、現役のバンドマンであり、レーベルオーナーでもある2人、辻友貴と中川航による対談を実施。cinema staffのギタリストとしてメジャーシーンでも活動しながら、2010年代半ばにインディレーベル「LIKE A FOOL RECORDS」を設立し、2015年にオープンしたレコードショップ(兼飲み屋)が2025年で10年目を迎えた辻。数多くのバンドにドラマーとして関わりながら、インディレーベル「ungulates」のオーナーとして、くだらない1日、ANORAK!、downtを輩出するなど、2020年代のシーンに直接関与してきた中川。ともに現場に根差した活動を続ける30代の2人だからこそ語ることのできる、リアルな現状をお届けする。
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「うちらより下の世代がSNSを使ってオルタナを盛り上げてくれてる」(辻)
ー現在のオルタナティブなバンドの盛り上がりをどう感じていますか?
辻:あんまり感じてないです(笑)。このシーンって、ずっとあると思うんですよ。かっこいいバンドもずっといるし、それなりにお客さんが入るバンドもずっといるし。だから今世間的に思われてる感じはなんなんだろうなと思うんですけど……まあめっちゃ若い子たちが盛り上がってる感じはちょっと前だとあんまりなかったかもしれないですね。雪国はこの前初めてライブを観たんですけど、新代田FEVERがソールドしてて。
中川:京くん(雪国のVo / Gt)なんて20歳くらい(2003年生まれ)ですよね。
辻:そうそう。それはすごいなと思うんだけど、でもNITRODAYとかリーガルリリーが出てきたときも20歳くらいでしたよね(※)。ただ当時よりも若い子が盛り上がってる感じがするのは、SNSがあるからそうなってるんだと思う。
※NITRODAYはメンバーが高校在学中の2017年にデビュー。リーガルリリーは2015年に10代限定フェス『未確認フェスティバル』で準グランプリを獲得して、2016年にデビュー。

1987年生まれ。岐阜県出身。cinema staffのほか、peelingwards、mynameisでもギターを務める。2010年代半ばにインディレーベル「LIKE A FOOL RECORDS」を設立し、2015年に新代田にオープンしたレコードショップ兼立ち飲み屋「LFR(LIKE A FOOL RECORDS / えるえふる)」は2025年で10年目を迎えた。
中川:それは大きいですよね。みんながパソコンやスマホを使ってて、宅録のハードルもすごい下がったから、いろんな音楽をミックスするバンドも増えて、そういうシーンが今まさに盛り上がってる感じなのかな。
辻:やっぱりSNSは若い人が中心だから、そこで盛り上がってる感じが今までと違うんじゃないかな。これまでオルタナを盛り上げてたのはうちら世代とか、うちらより上の世代だったけど、今はもっと下の世代がSNSを使って、「こういう音楽が面白い」って、オルタナを盛り上げてくれてる感じはあるかもしれない。それこそ、航くんも同世代だけど僕より少し下だから、その感じをやってくれてると思う。

1992年生まれ。HOLLOW SUNS、sans visage、as a sketch pad、soccer.など、様々なバンドでドラマーとして活動中。インディレーベル「ungulates」を主宰し、くだらない1日やdownt、ANORAK!の初期作品をリリース。また、ツアーブッキングエージェントとしてyour arms are my cocoonやOstraca、Rest Ashoreといった海外アーティストのジャパンツアーも手掛けている。ジャンルや国籍にとらわれず、国内外のインディペンデントなアーティストと共にシーンの活性化を推進している。
ーひとひらなどをリリースしているレーベルのOaikoはnoteを使って積極的に情報を発信していますよね。
中川:SNSの使い方がすごく上手なのはHOLIDAY! RECORDS(※)だと思います。バンドの名前を出さないで、「何だろう?」と思わせる文章を書くのが上手。僕もそういう風にやってみたら、そんなにとっつきやすい音楽じゃなくても、ちゃんと反応が良かったりして。今はむしろヘンテコな音楽の方が面白いと思ってもらえるのかもしれない。
※2014年にスタートした個人経営のセレクトショップ。実店舗はなく、通販サイトとライブハウスでの出張販売のみ。X、Instagram、noteなどでおすすめの音楽を紹介し、インディーズ好きから大きな支持を獲得している。
辻:最初HOLIDAY! RECORDSはSNS上手くてむかつくなって思ったけど(笑)、本人に会ったら本当に音楽が好きなんですよね。
ーこの2〜3年でLIKE A FOOL RECORDSに来るお客さんの層が変わったりもしてますか?



辻:そこはあんまりなんですよね。たまにめっちゃ若い人が来て、「1990年代のあのアルバムの何曲目が」みたいに、すごく詳しいんですけど、でもそういう子は基本的にずっとネットで追ってるんです。そこからこういう店があるのをたまたま知って来てくれたりもするんだけど、ライブを観に行くタイプでもなかったりするんですよ。
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2010年代のエモリバイバルが現代のシーンに与える影響
ーもちろんSNS自体は前からあったけど、10代~20代がオルタナな音楽の情報を積極的に発信したり、それに反応するようになったのはわりと最近のことですよね。そういう現行のシーンの背景を探ると、まずは2010年代に海外で起こったエモリバイバルが大きいのかなと。
辻:うちらは1990年代のシーンをリアルタイムでは追えなくて、掘って聴く世代だったから、リアルタイムで起こったエモのリバイバルを追えたのは大きくて。バンドでいうとAlgernon Cadwalladerとか、レーベルでいうとCount Your Lucky Starsとか。世代的に僕らよりちょっと上だと思うんですけど、ああいうバンドがいっぱい出てきたのは夢中になりました。

中川:個人的に思い入れがあるのはEmpire! Empire!(I Was a Lonely Estate)で、僕はもともと1990年代というより2000年代のエモが好きだったんですよ。入りでいうと、Fall Out BoyとかMy Chemical Romanceがもともと好きで、そこからエモ、スクリーモ、メタルコアとかを聴いて。で、そこからTopshelfとかCount Your Lucky StarsのようなレーベルをBandcampでめっちゃチェックするようになって、気に入ったら買ってました。
辻:僕よりちょっと下の世代はそういう音楽に直で影響を受けたバンドが多いんですよ。PENs+とか、1inamillionとか。シネマ(cinema staff)はもともとポップな音楽が好きだったんだけど、バンドをやってる中で1990年代のエモが途中で入ってきた感じなんですよね。でも僕のちょっと下はエモリバイバルの流れともっと直結してる印象で。
中川:SUMMERMANとかSLEEPLESSとか、吉祥寺WARPとかでよく活動していたバンドはそうですよね。好きだからそのまま落とし込んでやってる、みたいな。僕のプラマイ2、3歳くらいの友達はそういう感じですね。
ー海外でのエモリバイバルは若い世代だけではなくて、アメフト(American Football)をはじめとした再結成ブームも大きかったですよね。
中川:そうですよね。Mineralとか。
辻:Braidとか。
ー今の20代はアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とかシネマのような日本のバンドが入口で、そこからエモリバイバルを知り、アメフトやMineralはみんな当然知ってるような状況で、それが面白いなと。
辻:アメフトが復活したときは超歓喜だったし(2014年に再結成をして、2015年に来日)、BraidもMineralも復活して、あのときはすごかったけど、でもそこから一旦落ち着いたと思うんですよ。お客さんちょっと減った感じだったけど、今またすごいですよね。
中川:アメフトの今年の来日すぐソールドでしたよね。
ーZepp DiverCityがソールドアウト。
中川:前に来たとき(2017年)は赤坂BLITZでやってたと思うけど、ソールドしたかなあ?
辻:いや、してない。
中川:ですよね。今はあのときの盛り上がりよりでかいんだと思って、びっくりして。

辻:The Get Up Kidsも今年はリキッドルームが即完したんですよね。まあ、リキッドなら売り切れるとは思うけど、僕はシネマで2013年に共演したことがあって、今回そのときと同じアルバム(『Something to Write Home About』)の再現ライブなんですよ。正直2013年のときはそこまで盛り上がった感じじゃなかったけど、今はもっと若い子たちが食いついてる感じがあって、それは変わったなと思いますね。