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母、父、妹、そして親友の存在

─本書にもありますが、アイナさんのお母さんはもともと歌手になりたかったんですね。
アイナ:そうですね。お母さんは中森明菜さんや松田聖子さん、ピンク・レディーに憧れる世代で自分も実際になりたくて上京もしたけど、怖い目にあったり、東京でいろんな波乱万丈な日々があったみたいで。それで、芸能界をあきらめたらしいんです。
─どこか映画『キリエのうた』のキリエにも重なるような。
アイナ:そうなんです。お母さんの世代はたぶん今よりもっときつかったんじゃないかなと思うんです。男尊女卑も今よりもっと明確にあったじゃないですか。お母さんは自分が過酷な経験をしたから娘には芸能界は行かせたくないとは思いつつ、でもあきらめさせたくないという揺らぎがあって。だからダンス教育ママでもなかったし、お母さんの揺らぎのおかげで自分も自由なアーティストになれている気がします。
─やはりアイナさんはお母さんの夢を受け取ったという感覚もあるんですか?
アイナ:そういう感覚はあまりないんです。というのは、お母さんは2人の娘を育て上げたあとに、自分の夢を叶えるために今、歌手をやってるんです。だから、お母さんにもずっと夢があるんですよね。しかも、妹もお母さんの隣で踊っていて、私もお母さんに最近曲を作ってあげて、東京の家に来てもらってレコーディングもしたんですよ(笑)。
─それは素晴らしい。
アイナ:だから、私がいくら夢を叶えても、お母さんには自分の夢があるんです。

─芸大出身というお父さんは寡黙で、背中で娘に語り教えてくれるような、そういう人なのかなと思いました。
アイナ:お父さんは何も教えてこなかったし、教わらなかったです。でも、優しい人だからこそたまに言う一言がデカくて。
これは本に書くか悩んで結局、書かなかったんですけど、上京してうまくいかない時期に1回大阪に帰ったことがあって。そのときにお父さんに「何やってんの?」って言われたんです。私は「東京でダンサーしたり、仮歌の仕事をしたりしてるし、舞台の話もある」と素直に言ってみたんですよ。その舞台の話をした瞬間にお父さんが「何か一つ成功せんかったら、他に何やっても成功せえへんで」って言ったんですよ。
その言葉が響いて舞台に出ることもやめて、やっぱりちゃんと歌だけやろうと思って。お父さんはたまにそういう一言をパン! って言ってくれます。
─ダンサーとして活躍し、今ではアイナさんのライブでも踊っている妹のREIKAさんとも昔はバチバチの関係だったみたいですね。
アイナ:はい、ケンカをして包丁を突きつけられるくらい(笑)。だから今でも妹が横で踊ってることはすごく不思議な感覚です。
あの子は本当にいいやつなんですよね。なんか、「生粋のいいやつ」って感じがするんですよ。ズルさがなくて、踊りにもそれが出ていて、ガムシャラな踊りしかできないくらいいい子です。だから、これからも一緒にいるなかで、どうかそのまっすぐさだけは汚されないように、自分が守らなきゃって思ってます。
─REIKAさんもステージ上でアイナさんを力強くサポートしたいと思っているだろうし。
アイナ:本当に献身的なんです。私に対して敬語になったりするんですよ(笑)。「アイナさん」って呼んできたりして。でも、きっと妹なりに葛藤はめっちゃあったはずで。普通に考えたら、両親が2人ともBiSHのメンバーであるお姉ちゃんの活動を追いかけて、たぶん妹の夢よりもわかりやすく応援していたと思うので。
妹は妹でそこにすごく悔しい気持ちを持ちながらダンスをずっと続けてきたと思うから。妹は今こうやって一緒にいてもその悔しさを言語化してくれるんですね。「あのとき悔しかったから今がある」って。でも、そこに邪念がないんですね。すごいなと思います。

─親友であり、アイナさん初の写真集『幻友』も手がけた写真家の興梠真穂さんとの関係性にまつわる描写も生々しく印象的でした。時にぶつかり、時に距離を置きながら、友人とは何かという気づきを彼女との関係性のなかで得ていったんだなと。
アイナ:そうですね。真穂とは近づきすぎた時期があったんです。友だちってそんな近づきすぎないじゃないですか。特に女の子同士で毎日一緒にいて体を相手から噛まれるくらい近づく子なんていないので。
そこまで近づいた結果「あ、痛みって人にあげられないし、もらえないんだ」って思ったんです。真穂は痛みのシェアの仕方、親友として痛みを逃がしていく方法を教えてくれました。
─痛みを全部分かち合おうとすると共依存の状態になると思うし、お互いは間違いなく他者であるっていうことを前提に関係を築かないと、本当にその人を理解できないし、助けることもできないという。
アイナ:そうですね。当時、真穂はめっちゃ尖っていて、言葉も強くて。なんか、ロックンロールだったんです。それこそ、刹那的に生きてる人の言葉みたいな感じで。私はその一個一個の言葉の強さにいちいちムカついて、ずっとケンカしてたんですけど。
でもムカつくってことは刺さってるってことだから、彼女の言葉がかなり刺さってたんだと思いますね。私も違うと思ったら負けず嫌いだからすごく言い返してしまったり、そういう人ってなかなか出会えないですよね。10代で出会ってるからこういう関係になれたと思うし。今出会ってもあんなに友だちとぶつかれないと思います。
―それにしても「噛む」はすごいですね。
アイナ:私は妹と喧嘩してるときもよく噛まれてたんですけど(笑)。真穂は、もう本当に不器用だったんでしょうね。お母さんが亡くなったとき、不器用で寂しさを表現できないから私をあんなに噛んだんだと思うんです。いろいろあったけど、今では真穂は、写真家として生きていて、いろんな媒体で撮影をしていて。本当にすごいなって思います。私の写真集も真穂が作ってくれました。