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マユンキキが語る、人間の複雑さに向き合う意義。国際芸術祭『あいち2025』の新作とは?

2025.9.25

国際芸術祭『あいち2025』

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3年前に決断した「狭間に居続けること」

二つの土地を結ぶ作品の根底には、サウンドリサーチもある。昨冬には、マユンキキにとって幼少期から身近な存在だった石狩川近くの雪山に登り、マユンキキ⁺のメンバーと強烈な体験を共有できたという。

マユンキキ:早朝4時頃に山に登ったとき、遠くの工場が動き始めたり、鳥が鳴いたり、音で夜明けを感じることができたんです。光よりも先に音で世界が変わっていく夜明けの感覚が鮮烈で、すごく懐かしい、不思議な気持ちになりました。

その後、母が私を身ごもっていたときに、出産前日に同じ山を登っていたということが判明して、もしかしたら私が生まれる直前にお腹の中で聞いていたのは、あの山の雪を踏む音だったのかもしれない。こんな出来すぎたことってあるんだ、と驚きました。普段からアウトドアが好きなわけではないし、山なんか特に登りたかったわけではありません。でもなぜかこの時は、雪山には登って、音を聴かなければと思ったんですよね。後から考えると、自分をチューニングするために必然だったんだと思います。

誰もが他者を尊重することが当たり前になれば、私が作品を作る必要はなくなるーー自分が作品を作らなくてもいい世界に変わることを望むというマユンキキに、「そういう世界が訪れた時に何をしたいか」問いかけた。

マユンキキ:なんだろう……ただ楽しいだけのことをしたい。ただ楽しいだけのことってなかなかできないじゃないですか。私、鼻歌が世界で一番幸せな歌だなと思っているんですが、作品を観た帰りに、みんなが絶対に鼻歌を歌っちゃうような。ただ楽しかったことだけを思い出せる作品を作れたらいいですよね。

話を聞く中で、疑問が生まれた。祖父の偉業が語り継がれて残っていく一方で、祖父の人間らしい側面も残したいと作品に反映したマユンキキは、その狭間を揺れ動くことについて、どのように考えているのだろう。

マユンキキ:どちらかの側に行くことってできないんじゃないかと思うんです。全てのことに事情がある、それはとても重要で。例えば祖父が鉄道を作ったことにも事情があるし、祖父に鉄道を依頼した人にもその人の事情がある。よいことも悪いことも、結果に辿り着くまでに本当にたくさんの事情が重なっています。

そうした、どんな事情も無視したくない。だから私は狭間に居続けて、揺れながら考え続けるしかないなと覚悟したんです。どちらかの側に寄ってしまうのって、楽なんですよ。でも楽をしないで、狭間にいたい。そうしないと自分の中にどんどん矛盾が生まれて、自分が美しくなくなってしまう。人として美しく在りたい。それをとても大事にしていて、だからずっと悩み続けるのだと思います。

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