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Netflix『アドレセンス』が映し出すミソジニー、マノスフィア、私たちの無自覚

2025.4.22

#MOVIE

殺された少女の視点を描かなかった意義

前述してきた通り、本作で描かれるのは殺人容疑で逮捕された少年やその家族、周囲の人々が遭遇する「地獄」だ。その一方で、完全に「描かれなかった」ことがある。それは「殺された少女」と「事件当日」の様子だ。

被害者の少女については、その親友の少女や、逮捕された少年から断片的に語られるだけであり、彼女自身の姿が映像に映し出されることはほとんどない。事件当日のことも、「証拠」としては提示されている以外は、鑑賞者は当事者の証言から推測(ほぼ確定)できるのみだ。

こうした社会的なテーマを扱った作品で「一方の視点のみ」を描くのは危うさがあるようにも思えるところだが、むしろフェアで誠実な描き方であると強く感じる。なぜなら本作は、一方の視点が持つ「思い込み」の恐ろしさを描いている作品であり、観る者にその構造を自覚させる作品だからだ。もしも、本作で殺された少女の視点を描いてしまうと、逆説的に「加害者側の言い分も一理ある」といったような、悪い意味での免罪符を与えてしまいかねない。

実際の殺人や凄惨な事件においても、人々は憶測で物事を語り、時に正当な批判を超えた糾弾をしたりもする。そして、私たちはその他の事象においても、無意識的にせよミソジニー、インセル、マノスフィアに陥ってしまう可能性がある。劇中のような「一線を超えた」過ちをしないよう、誰もが今一度認識を改めなければならないと、『アドレセンス』を観て痛感させられた。

なお、フィリップ・バランティーニ監督は、2022年に日本でも公開された映画『ボイリング・ポイント/沸騰』でも、レストランを舞台に、人種差別や同性愛嫌悪など、現代社会の切実な問題をワンカット映像で描いた。そちらも『アドレセンス』と同様にこの世に偏在する地獄を見つめ直すきっかけとなるだろう。併せて体感していただきたい。

『アドレセンス』

Netflixシリーズ「アドレセンス」独占配信中
https://www.netflix.com/Adolescence

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