Netflixで配信中のドラマ『アドレセンス』が、大きな話題を呼んでいる。公開後2週間での視聴回数は、全世界で6,630万回を記録し、Netflixのリミテッド・シリーズ(1シーズンで完結するドラマ)として歴代1位となった。
同作で描かれるのは、殺人容疑で逮捕された13歳の少年と、家族やクラスメイトといった周辺人物たち。物語の背景には、ミソジニーや、インセル、マノスフィアといった、現代におけるトキシックな男性思想の問題がある。映画ライターのヒナタカが同作を解説する。
※本記事には作品本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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予備知識なしで観ることをおすすめしたい
本作について見る前に知っておくべき情報は、「13歳の少年が殺人容疑で逮捕される話」であり、「1話ごとのワンカット映像で4話構成」である、という程度で十分だろう。予備知識は特に必要としない、いや、何も知らずに見てこそ、各話で突きつけられる問題に、より良い意味での「ショック」を受けることができるはずだ。
この記事でも決定的なネタバレは避けたつもりだが、各話の内容には触れることをご容赦いただきたい。そして本作では「何が描かれ」「何が描かれなかったか」が、今の社会、特にSNSに潜む根深い問題にもつながっているということを、改めて整理していきたい。
なお、本作はストーリーや謎解きに引き込まれるエンタメ性も存分にありながら、重く深刻な題材が描かれているので、なるべく精神的に安定している時に観た方がいい。また、没入感が重要な作品でもあるため、スマートフォンやタブレットでの視聴よりも、大きなテレビ画面でどっしりと腰を据えて観ることをおすすめしたい。
※以下からは『アドレセンス』の各話の内容に触れています。
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ワンカット映像で「地獄」を体感させられる
本作のワンカット撮影は、「当事者」の気分をリアルタイムで体験させる演出として機能している。
第1話では、「子どもが殺人容疑で連行される」早朝からの一連の流れが描かれる。13歳の少年に銃が突きつけられ、父親と共に警察署へと搬送され、弁護士がつき、警察との取り調べが始まる。カメラは主人公の少年について回るだけでなく、父親や警察官の視点に移る時もあり、「未成年の少年の逮捕における周囲の動向」も興味深く見られるだろう。
なかでも克明に描かれているのは、父親が抱く不安と恐怖、もっといえば「地獄」だ。目の前で子どもが連行され、身体検査で裸にされ、取り調べでは性的なことまで質問される。不快感と無力感に苛まれながらも、「息子は無実だと信じたい」という親として当たり前の気持ちが、その表情から痛いほど伝わってくる。

これらのシーンからは、犯罪に巻き込まれたことで数時間のうちに人生が一変する様をワンカットで描いたドイツ映画『ヴィクトリア』(2015年)、そして、いじめで同級生を殺してしまった少年の家族が生き地獄に陥る日本映画『許された子どもたち』(2020年)が連想される。鑑賞者は「息子が殺人容疑で逮捕される1時間」という、特に親にとっては現実で絶対に直面したくない「地獄」を擬似体験することになる。