「仲間と定期的に集まりたい」という何気ない気持ちで始まったイベント「Thir(s)ty One」は、「友達の友達」しか入れないクローズドなコミュニティの中で独自の熱狂を育み、気づけば3年目となった。そして来る8月31日(日)、その熱量を解放し、誰でも参加ができる「一日限りの公開実験場」として『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』の開催に挑む。TENDREとyurinasiaによるコラボステージや諭吉佳作/menのカムバックなど異分野の才能が交錯するこの場は、来場者をも巻き込む「実験」の舞台となるだろう。
これまで「友達の友達まで」と参加者を限定してきた彼らが、なぜ「オープン」に踏み切ったのか。そしてこの場所で生まれる新たな価値とは。運営メンバーの小田切萌に加え、「Thir(s)ty One」に縁の深い落語家・桂枝之進、パソコン音楽クラブのニシヤママサト、そしてクリエイティブユニットtsuchifumazuのwatakemiを迎え、「Thir(s)ty One」のこれまでとこれからを話してもらった。
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カルチャーが混ざり合う、Thir(s)ty Oneの原点
―まずは、「Thir(s)ty One」を立ち上げたきっかけや、31日に開催する理由、そしてクローズドイベントで培われてきた「友達の友達」というコミュニティの熱量について、これまでの歴史も交えながらお伺いできればと思います。
小田切:「31日がある月末に、みんなが楽しめる新しい祝日を作ろう」――そんなコンセプトで「Thir(s)ty One」は2022年3月に始まりました。コロナが落ち着き始めて、「そろそろ集まりたいけど、大々的に告知するのはまだちょっと……」っていう時期だったんです。私を含めた4人の運営メンバーで、コロナ前に知り合いベースのイベントを開いてみたら、友達とその友達が来るくらいの規模感がとても居心地が良くて、そこから「Thir(s)ty One」が始まりました。イベントのInstagramは鍵アカウントにして、フォロー承認も共通の友達が2人以上いないとしないとか、開催場所の投稿は「友達のみのストーリーズ」にする、みたいな制限を設けることで、のびのびとしたコミュニティ感を大事にしつつ、安全な場を守ってきました。ただ集まってワイワイするだけじゃなくて、「Thir(s)ty One」が何かを生み出すきっかけになる場所になったらいいなと思っていました。

プランナー。Public Relationsを軸とした、社会に良いニュースを生み出すことを目指す。The Breakthrough Company GOで働きながら、31日のみに開催するクローズドパーティーThir(s)ty Oneの運営も。楽しく巻き込み、巻き込まれることが好き。
⻄⼭(パソコン音楽クラブ):僕は去年8月31日の『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』に出演させてもらい、その前にも何回か遊びに行きました。運営メンバーの稲垣くんが、僕がやっているパソコン音楽クラブというユニットのVJの演出プロデューサーなんです。僕自身が主催するパーティーにも31(Thir(s)ty Oneの通称)のメンバーがよく遊びに来てくれていたので、みんなのことは知っていて。そんなご縁で、今年の『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』にもパソコン音楽クラブとしても出演することになりました。
―初めて参加された時はどんな印象でしたか?
⻄⼭:仕事柄いろんなイベントに行くので、多様な雰囲気を経験しているんですが、31は音楽を本業にしている人のパーティーじゃないのが特徴的でしたね。アパレルや美容師など、音楽に隣接する方が主催するパーティーは多いと思うんですけど、ここはそのどれとも違う雰囲気なんです。主催者もディレクターやデザイナーなど、クリエイティブ系の仕事をしている人が多くて、集まってくるお客さんも新鮮だなと思いました。31で出会う人たちは、「友達の友達」っていう繋がりが多いからこそ、一気に輪が広がるような感覚なのに、内輪ノリではないんですよ。そういう空気は、ある意味独特で、とても新鮮でした。

2015年結成のDTMユニット・パソコン音楽クラブのメンバー。アナログシンセサイザーや音源モジュールのサウンドをベースにエレクトロニックミュージックを制作。他アーティスト作品への参加やリミックス制作も多数手掛ける。
枝之進:僕は元々関西の噺家で修行していて、19歳で東京に出てきたんです。クリエイターの友人から誘われたのがきっかけで31に行くようになったのですが、ある時運営の斧くんが話しかけてくれたんです。僕がやっている、落語のミクスチャーを実践するコレクティブ「Z落語」のことを知ってくれていたみたいで。それで去年の8月31日の『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』にも呼んでもらって新作落語を披露したんですが、普段の噺家の活動では聞かないくらいの「キャー!」という歓声が上がって。とても楽しかった記憶があります。

2001年6月20日生まれ。2017年1月 六代文枝一門三代目桂枝三郎に入門。2017年12月 天満天神繁昌亭「枝三郎六百席」にて初舞台。 全国の寄席やイベント、メディア等で活動するほか、2020年、落語クリエイティブチーム「Z落語」を立ち上げ、渋谷を拠点にZ世代の視点で落語を再定義、発信するプロジェクトを主宰している。
―「Thir(s)ty One」で初めて落語に触れる方も多そうですね。
小田切:枝之進くんに来てもらうことで、私たち自身も新しい文化に触れるきっかけになっています。31では出会うジャンルの幅広さや、それぞれが混ざり合うことを大切にしているんです。多様なジャンルの方が繋がるきっかけが生まれるように、私たち自身も様々なコンテンツを考えていて、たとえば、ステッカーの裏にニコちゃんマークを書いて、同じマークの人と出会ったら一杯プレゼントという企画もやりました。偶発的に新しい関係性が生まれることを楽しめるような空間作りやコンテンツを考えていきたいと思っています。あとは、開催場所やイベントのテーマも毎回変えていて、去年の夏はSALOONにやぐらを建てて夏祭りも開催しました。




⻄⼭:運営メンバーの4人ともそれぞれ普段から、演出やプロデュースなどを生業にしているプロたちの集まりなので、クオリティは高いし、毎回演出がかっこいいんです。回を増すごとにそういう演出や美術、構成みたいな部分もどんどん強化されていると感じます。
小田切:「仕事の外の部活」みたいな感じで、みんなで納得いくものを作ることをすごく大事にしていています。私たち20代後半から30代前半くらいの年齢は、いいチームで仕事をさせてもらいつつも、まだ若手であるが故に、裁量がない歯痒い時期でもあると思うんで。だからこそ、31では徹底的に自分たちの責任で「これだ!」と思える良いものをみんなで作りたい。同じような立場の同年代の仲間たちが、それぞれの得意な分野で楽しみながら力を貸してくれるので、企画している私たちの想像を超えるような素晴らしいステージができあがるんです。
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コミュニティを「閉じてから開く」という挑戦
―これまでクローズドであることを大切にされてきたイベントから、なぜ「オープン」開催も試してみようと思われたのでしょうか?
小田切:自分たちが作ってきた景色をちょっとだけ色んな人に見てみてもらいたくなったんです。これまでクローズでやってきたけれど、一度オープンなイベントで、いつもの31メンバー以外の人たちにも来てもらったり、イベントを知ってもらうきっかけとして拡大するタイミングだと思い、去年の8月31日に最初の『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』を開催しました。前日に台風が来た関係で出演キャンセルが出るなどのハプニングもありましたが、結果的にすごく盛り上がって、自分たちが見てみたかった景色に近づいたなと思いました。
枝之進:『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』には、友達の友達として参加している人もいれば、アーティストを目当てに来ている人もいる中、やっぱりいつもの31ならではの居心地の良さは担保されていて、すごく珍しい状況だなと思います。

⻄⼭:アーティストも楽屋から出て、フロアで普通に踊っていたりとか。そういうのも含めて、心地いい空間だと思います。
小田切:出演者の方々も、基本的に私たちメンバーの誰かが「友達」と言える人にお声がけする、という決まりにしています。「この人が来たら集客できる」といった理由で選ぶのではなく、「みんなに紹介したら面白そう」と思えるような人に来てもらうんです。だからこそ、演者の方がフロアに出てきても、まるで友達同士のように「みんなで乾杯しよう!」ってなる。そんな近い関係性が生まれる空間になるんだと思います。
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TENDRE×yurinasiaやダブルダッチの日本代表選手まで参加。テーマは「一日限りの公開実験場」
―今年の『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』ではどのようなことを企画されているのか、詳しくお伺いできればと。
小田切:新しいものが生まれる場を創造したいという思いから、今年は「一日限りの公開実験場」というテーマを掲げています。黒字になるかどうかも分からない状況で、何のためにお金をかけてまで開催するのか。それなら、自分たちが見たいものを追求しようという考えです。今回の会場となるWWWと、演出の軸となる巨大なバルーンという象徴的な空間の中で、心から実験を楽しめるようなアーティストの方々にお声がけしています。今回は、ダブルダッチ(※)の日本代表選手にも参加してもらうなど、出演いただく方のジャンルの幅もさらに広がっています。異分野の才能が融合し、共に実験を楽しむ様子を来場者の皆さんにも体感してほしいです。
具体的には、枝之進くんは新しい落語の実験を企画してくれていますし、ラッパーの徳利さんのライブでは、サーモグラフィーを使ったライブ演出で温冷交互浴のようなものを表現する予定です。また、yurinasiaさんとTENDREさんのコラボレーションステージでは、デジタルで水面の波紋を現す演出をしたい、といった話も出ていたり、みんなで一緒に実験して、一つのイベントを作り上げていく。私自身、まだまだ想像もつかないことばかりで、今からとても楽しみです。
※2本の縄を使って跳ぶ縄跳び。
枝之進:今回僕は、AIを使った落語の創作に挑戦します。「AIに絶対に逆らえない世界線で、AIの師匠を前に落語の稽古をしないといけなくなった」という状況で、AIがダメ出しをしてきて、それにどう向き合うのか、という人類とAIの戦いを描きたいと思っています。運営チームから「もっと新しいアイデアをください」というオーダーが毎回くるので(笑)、せっかく出演するなら、自分の中で温めていたけれど、まだ実現できていないような新しい企画をやろうと決めました。
※ここでtsuchifumazuのwatakemiが遅れて参加。
watakemi:遅くなってしまってすみません……!

クリエイティブユニット・tsuchifumazuのメンバー。2019年結成。それぞれの世界観を持ち寄り、常に新しい表現を目指す。
小田切:watakemiさんはみんなの先輩みたいな感じで、31メンバーはみんなお世話になっていて。
⻄⼭:watakemiさんが参加するクリエイティブユニットtsuchifumazuは、僕らパソコン音楽クラブのVJもやってくれています。
―パソコン音楽クラブ×tsuchifumazuチームは今回どんなことをされる予定ですか?
watakemi:今はまだ構想中というのが正直なところなのですが、31って毎回、空間演出が面白いんですよ。だからこそ映像の出しがいもあります。
⻄⼭:tsuchifumazuとはセットで出ることが最近はとても多いので、盛り上がる「正解」みたいな演出がある程度わかっている上で、そうじゃないパターン、今回の動きに合ったものを考える、という部分に今苦労しているんです。
小田切:私たちも楽しみです。『OPEN DOOR』で新しい実験を見て、何かを感じてもらえたら嬉しいですし、ここで出会った人と新しいことを始めたりするのもいい。今後もみんなが自由に試していく場でありたいなと思います。

ーまだまだこれからもアップデートを重ねて続いていきそうなThir(s)ty Oneですが、2026年7月31日で一度ラストにすることを決めているんですよね。
watakemi:本当に終わるんだ。
小田切:文化って、上の世代から若手にバトンタッチしていくことで継承されていくんだと思います。あえて終わりを決めることで、「Thir(s)ty One」を今の時代のものである象徴にしていきたい。この時代に生まれた「Thir(s)ty One」から、今度はまた別の何かが派生していくことを期待したい。そういう思いで31回で終わりにすることをきめました。でも、今年の『OPEN DOOR』をやったら、違う形で続けてみようとか、気持ちが変わっているかもしれませんが(笑)。

―『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』に来場する皆さんに、どんな気持ちを持ち帰ってほしいですか?
小田切:自分の世界が少しでも広がるような、良い刺激を持ち帰ってほしいと思っています。現場に集まった人たちとの偶発的な出会いが生まれるような、そんな空間設計やステージ演出を考えているので、ぜひ今後に繋がるような繋がりが生まれてくれたら嬉しいですね。また、WWW βの方では、31メンバーによるBtoB企画も考えています。例えば、「このDJとDJをかけ合わせたらどうなるか?」とか、「デザイナーとデザイナーのDJが一緒にやったらどうなるか?」といった実験ですね。31のメンバーにも、そしてお客さんにも、様々な実験に「乗っかって」楽しんでもらうつもりです。
枝之進:『OPEN DOOR by Thir(s)ty One』の魅力は、その日、その場所でしか見られない実験的な企画がたくさん生まれることです。ここで初めて世に出る企画も多い中で、お客さんも単なる鑑賞者とではなく、「実験の参加者」としての側面が強いと感じています。だからこそ、初めて見るものを面白がる力、そしてそれを自分なりにどう解釈し、持ち帰るのかという、その感覚やアンテナを持ってきてほしいなと思います。そこに私たち演者がどう実験で応えられるのか、これから1ヶ月間じっくり悩むことになりますね。一番新しいことを体感してもらえるように頑張ります。
小田切:「参加者」って視点、めっちゃいいですね。ボーダーがないようにする、ということを大事にしていて、DJとして、演者として、参加するというよりも、みんなが良い友達関係になれるように、ということがコンセプトなので。「ああ、だから今回は実験をテーマにしたんだな」って、今話を聞きながら改めて納得しました。
⻄⼭:コンセプト的な話で言うと、二人が言ったことが全てだと思うので、あえて楽しみ方というか、気持ちの問題という感じで話をすると、例えば何かものづくりを始めたいと思っている人や、そうでなくても、新しいものに触れたい、新しい体験をしたいという人にとっては、ここで繰り広げられる様々な取り組みや実験を通して、たくさんの気づきがあるはずです。そこで何かを感じたときに、「これって誰が作ってるんだろう?」「どうやってこんなものが出来上がってるんだろう?」って疑問に思うこともあるはず。なので、ぜひ気軽に運営チームでも、僕らにでも話しかけてほしいなと思います。名刺を持って行って「一緒に何か作りましょう」って言ってみるのもアリかもしれません。人と話せるきっかけがたくさんあると思うので、ポジティブにイベントを楽しむことが、大切なのかなと思います。
watakemi:非日常的なことをたくさん試そうとしている主催者の4人とぜひ、知り合ってほしい。もっと知れる方法があるといいのかな……なんかぼーっとしてきた(笑)。
一同:(笑)。
小田切:31では、毎回ステッカーを配っているんですよ。街で偶然すれ違った人が同じステッカーを貼っていたら、「あっ、あの時いたんですね!」みたいに、そこから会話が生まれるきっかけになったらいいなと思っています。

watakemi:そうですね、仕事でいろんな現場に行きますが、初めて知り合う方と話していると、「31知ってるんですね」と言われることが多くて。気付いたらそういう繋がりというか、繋がる可能性が網のように広がっていて。31に行って、その可能性がうっすら繋がるだけでもいいと思うんです。あの日があったから今があった、そう言えるようないいご縁があるかもしれないです。

『OPEN DOOR 2025 by Thir(s)ty One』

08/31 (日) 14:00 – 21:00
チケットURL:https://31-thirstyone.zaiko.io/e/opendoor25
Instagram:https://www.instagram.com/31.opendoor/
Thir(s)ty One
Instagram:https://www.instagram.com/31.thirstyone/