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のんインタビュー 映画『平行と垂直』でASDの兄を持つ妹の葛藤をどう演じたか

2026.9.25

#MOVIE

夕食の野菜を同じ長さに切り揃え、勤め先へ向かう道のりをまっすぐ歩き、直角に曲がる。現在公開中の映画『平行と垂直』の主人公である自閉スペクトラム症(ASD)の日向大貴は、自身の規律に沿って、毎日を生きている。そんな大貴に寄り添ってきた妹・希の結婚という出来事を機に、規則的な日々にもたらされたうねりに、2人はそれぞれ向き合うことになる。

今回は、安田章大演じる大貴の妹で、カウンセラーとして働く希を演じたのんにインタビュー。希の複雑で繊細な葛藤に、のんは俳優としてどのように向き合ったのだろうか。

芸能活動20周年、のんとして10周年という節目の年である今年。アニバーサリープロジェクト『のん10≧20(のんテントゥエンティ)』も始動する中、俳優業とともに活動の柱である音楽やアートの創作を含めた現在の活動と、言葉や「伝わること」への思いについても話を聞いた。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

ASDのきょうだいを持つカウンセラー3人への取材。希という役の輪郭を作る

—最初に本作の脚本を読まれたとき、どのような感想を持ちましたか。

のん:2人の日常が続いていく中で、喧嘩をしたり、立ちはだかった問題を乗り越えていく姿が愛おしくて、本当に心温まる物語だと思いました。これまでもASD(※)について知ろうとしたり、ASDの方を描いた作品を観たりしてはいたんですけど、その家族の方のことについてはあまり考えてこなかったんです。この作品では、家族の視点も描かれているのが新鮮で、「そっか、そういう課題があるのか」と、はっとさせられました。大貴が一生懸命生きていることや、大貴と希が2人で生きていく姿をたくさんの人に観ていただくのは意義があることだと思います。

※自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの難しさと、興味・行動の偏りや感覚の特性が、発達早期から持続する発達障害の1つである。知的水準や言語、生活上の困りごとは多様で、⽀援により適応は改善する。⾃閉症を中核概念に障害の表れを一つの連続体(スペクトラム)として診断される。(―『平行と垂直』作品資料より)

—企画プロデュースの佐藤現さんによるプロダクションノートに、のんさんに脚本を送った際、「脚本について感じたことを幾つか伝えてくれた」と書かれていました。それは、具体的にどのようなことだったのでしょうか?

のん:すごく素敵な作品だったので、「こんなふうになってほしい」という欲求が生まれて、より伝わってほしい部分を箇条書きにして送ったんです。具体的にはまず、希が大貴を支えているけれど、同時に希も大貴に支えられていることがもっとわかりやすくなったらいいなと。あと、最終的に希の婚約者である雅也の家族が大貴を受け入れてくれたことが伝わってほしくて、「たとえばこんな描写があったらいいんじゃないか」とか、つらつらとお伝えしました。

のん
1993年7月13日生まれ、兵庫県出身。俳優・アーティスト。音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。2016年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』(片渕須直監督)で主人公すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭審査員特別賞を受賞する。2022年には主演映画『さかなのこ』(沖田修一監督)で、第46回日本アカデミー賞「優秀主演女優賞」を受賞。近年の主な出演作品にドラマ「幸せカナコの殺し屋生活」(2025/DMMTV)、「新幹線大爆破」(2025/Netflix)、「MISSKING/ミス・キング」(2025/ABEMA)、映画『アフター・ザ・クエイク』(2025/井上剛監督)、『てっぺんの向こうにあなたがいる』(25/阪本順治監督)などがある。音楽活動では、10月18日から全国ツアー『のん自由(10)ツアー2026』を開催予定。俳優・音楽・映画・アートといった枠にとらわれず、自由な表現に挑み続けてきた創作活動が評価され、24年に第16回伊丹十三賞の受賞も果たした。

—実際に希と同じようにカウンセラーであり、ASDのきょうだいを持つ方にお話を伺われたそうですが、演じるうえでどんな部分がヒントになりましたか。

のん:3名のカウンセラーの方にお話を聞いたんですけど、一括りにASDと言ってもいろんな特性があって、一人ひとり違うんですよね。なので、同じ質問をしても、いろいろな答えが返ってきたんです。たとえば、独り立ちをしようと働いている大貴について「どう思いますか」と質問したときに、「自立してくれたら嬉しい」という方もいれば、「自分が気にかけなくても生きていける状況になったら、心にぽっかり穴が開いてしまうかも」「そういう状況にはない」という方もいらっしゃいました。全部を受け止めて、希だったらどうかなと考えました。

その中でもすごく腑に落ちたのが、どんなことを思っているか言葉では教えてもらえない中で、「きっとこう思っているはずだ」と、自分の中で断定してコミュニケーションをとっているというお話でした。私たちも普段相手の思いを想像しながら生きているわけですけど、家族ってまた少し違うと思うんですよね。なにを考えているのかわからない瞬間もあったりしますけど、仲の良い家族なら、日常生活の中では大体わかる気がするんです。それが当たり前なんだというのが、役を解釈するうえですごくヒントになりました。

自分の「好き」を知ることが、自分自身を知る手掛かり

—希は大貴を大切にしたい気持ちと自分自身の人生を歩みたいという両方の気持ちで葛藤していたと思いますが、その葛藤についてはどのように捉えて演じられましたか。

のん:希は誰かとの人生を決断するにあたっても大貴のことを一番に考えているんじゃないかと思います。グループホームに入っていた大貴が働いて1人暮らしすることを決めたこと、職場でのことや警察沙汰になったこと。それまで2人が生きてきた中ではいろいろなことがあったはず。兄妹だから当たり前の存在だけど、ほかの人にとってはそうじゃないことをわかっていると思うんです。だから、ASDの人たちに触れてこなかった人が大貴をどう見るか、神経質に考えているはずなんですよね。

でも大貴がどう思うかというのも、希にとってはすごく大事なことで、自分が結婚することでその先の人生が変わっていくことを受け入れてもらうにはどうすればいいんだろう、と。その2つの軸があると思います。どうしようもないお父さんもいるけれど、一緒に暮らしてきた年月も含めて、希にとって大貴が唯一の家族なんじゃないかと思うんです。いざとなれば結婚を諦めなきゃいけないかもしれないとも考えながら、どうにか頑張りたいと希は思っていたんじゃないかなと解釈していました。

映画『平行と垂直』場面写真

映画『平行と垂直』場面写真

—希が、大貴の存在が周囲からどのように受け止められるか考えざるを得なかったのは、ASDの方への偏見や誤解がまだ社会にあるからなのではないかと想像します。そうした中で本作が作られ、観られることの意義を感じました。ご自身が出演する作品が社会にもたらす影響について考えていることはありますか。

のん:私は役者なので、オファーを受けてやるかやらないかを決めるときに、自分がその役を演じて納得感や驚きがあるか、その作品に関わる意味があるのかをまず考えるんです。それに、やっぱり映画は面白いと思ってもらえたり、なにか気持ちを動かす娯楽として存在しなければいけないものだと感じているので、その作品がシンプルに面白いと思えるかどうかも大事です。そういう中で意義のある作品に巡り会えるのは嬉しいことだし、今回はすごく特別だったと思います。

—希も、大貴に支えられていることをよりわかりやすくしたかったというお話がありました。のんさんにとっては、いまどんなものが支えになっていますか。

のん:自分の好きなものが支えになっていると思います。この映画が好き、絵が好き、この彫刻が素敵、とか。なんでもいいんですけど、そういった一つひとつが自分のアイデンティティを形成している気がしていて。好きなものを知ることで、自分を知ることができて、「自分はこういうものを好きな人なんだ、それはなんでだろう」と紐解いていくと、新しい発見があるんですよね。そうしたときに自分の輪郭がくっきりしてくる感覚があります。

「言葉」に対する意識の変化。きっかけは初監督作の『Ribbon』

—本作の中で、「心にある思いって、口に出した瞬間から言いたかったこととは遠ざかっていく」という希の台詞が印象的でした。のんさんもご自身で作詞をされたり脚本を書かれたり、言葉を使った表現を行われています。言葉について希のように感じることはありますか?

のん:私は言葉にとらわれがちな人間なので、会話をするときにも言葉の確かさを大事にしているんです。大事にしすぎているからこそ、希が言っていたみたいに自分が思っていたことと遠ざかっていく感覚はすごくあります。だから難しいなと思うし日々勉強中ですけど、言葉を使うことは好きなので、上手に扱える人にはすごく憧れます。

ただ、音楽活動で歌詞を書くときや、今日のようなインタビューのときに言葉を使って話したり書いたりするときは、自分が発言したことがどういうふうに受け止められるか、言葉の意味が変容していくことも楽しみたいと考えているんです。

—歌詞は受け止め方の幅が広いものだと思うのですが、こうしたインタビューのようにご自身が話したことについてもそうなんですね。

のん:そうですね。まるで違うふうに曲解されたら、嫌だなと思っちゃいますけど(笑)。楽しんでもらっていたら私は結構ウェルカムというか、それさえも面白がるようにしています。

—「言葉にとらわれがち」とおっしゃっていたので、自分の心にぴったりくる言葉を、ぴったりそのままの意味で受け取ってほしいということなのかなと思っていました。

のん:ぴったりであってほしい人なんですよ、本当は。だからいままでは褒めてもらえるときにも、自分が納得するように褒めてほしいみたいな思いが強かったのですが、最近はもう伝わらないものだと思うことにしているところがありますね。

—伝わらない方が前提になったんですね。

のん:自分が思っているのとまるっきり同じように伝わってほしいという欲求が強すぎたんですけど、全員同じ考えだったら私がいっぱいいることになるから、私の存在意義がなくなるなってやっと気づき始めました。なので最近は、自分のクローンはいらないという気持ちで言葉を使っているかもしれないです。

—『平行と垂直』には、さまざまな事情の中で生きている人たちが社会にいて、思いや意図がうまく伝わらない場面も描かれていました。のんさんが伝わらないことや人と自分が同じではないことを面白いと思えるようになったのはなぜですか。

のん:『Ribbon』(2022年)という映画の脚本を書いて監督したことがきっかけかもしれないです。自分の撮りたいものをスタッフ全員に伝えるということが、こんなにも難しいのかと気づいて。でも、そのうえで「こう来たか」という自分の想像を超えたそれぞれの表現を出してもらうことがすごく面白かったんですね。

私自身、役者としても、演技で自分の想像を超えたところに行けたときに感動があるので、はっとさせられたことがあります。自分の言葉の受け取られ方が変わっていくことについても、似たようなところがあるなと思って。だから、伝わらない人は使っている言葉が違うだけで、その人の言葉で喋ろうとすればいいのかもしれないとそのとき実感したんです。

—同じ言葉でもそこに込められたバックグラウンドはそれぞれ違ったりしますよね。

のん:たとえば海開きして浜に行くときに、「海に行こう」と言う人と「泳ぎに行こう」と言う人がいたとして。「泳ぎに行こう」を共通語として使う仲間の中では、それだけで海に行くんだなってわかるけど、「海に行こう」と言う人にとっては、「どこに泳ぎに行くの?」と思うじゃないですか。そういう言葉の違いってみんなけっこう持っている気がするなって、『Ribbon』を作ったときに感じたんです。なので自分の持っている言葉だけを信じないようにしています。

芸能活動20周年、のんとして10周年。「自由」と「怒り」が創作を動かす

—今年は芸能活動20周年、のんとしての活動10周年という節目の年です。振り返ってみて、のんさんにとってどのような期間でしたか。

のん:すごく豊かだったと思います。のんになってからは、自分のプロデュースチームを作って、一緒に話し合って考えていています。すべてを自分で決めて責任を持ってやっていて、いまの活動形態が合っているなと実感する日々で、良かったと思える10年を過ごしていますね。

—ご自身の裁量の幅が増えた中で、10月から始まるツアーのタイトル(『のん自由 (10) ツアー 2026』)には「自由」という言葉が入っています。なぜこの言葉を選んだのか、またのんさんがいま自由についてどう感じているかを伺いたいです。

のん:自由という言葉を選んだのは、10周年の「10」にかけたダジャレっていうのと(笑)、本当に自由な道のりを過ごさせてもらっているなという納得感があるからです。

「自由」という言葉は、自分が作ってきた10年間、応援してくれた人、一緒に歩んできた人たちとの共通語になっている気がしています。「自由」であることが自信にもなっているし、言いわけにもなる感じが面白いなと思っていて。「いや、もう自由だからしょうがないじゃん!」と言える傲慢さがあると、生きていて楽ちんになる。だから自由という言葉を最適なタイミングで使いました。

—のんさんの表現には、いま「ダジャレ」とおっしゃっていたようなファニーな感覚やキュートさもあると思うのですが、同時に、怒りが創作の原動力になっているとお話しされていたのを以前に拝見して。のんさんが怒りを大事にしているのはなぜですか?

のん:怒りの感情は自分の中で一番お気に入りで、楽に使える感情なんですよね。楽しそうにしていたり、喜んでいたり、悲しそうにしていたりするのを見られるのはちょっと恥ずかしい気持ちがあって。怒っているのを見られる方が、まだ抵抗が少ないんです。怒っていると強くいられるし、頭が回転して「こんなことやりたい」と思いつく。私の中では表現するうえで有効活用できる感情なんです。使いものにならない怒りのときもあるんですけど、使える怒りはネガティブな感情をポジティブに変換できて、それがすごく気持ちいいんですよね。そうやって突き抜けたときのパワーは自分の中ですごく大きなものだと思っています。

怒りをやり過ごしたり、折り合いをつけなきゃいけないときももちろんあるんですけど、これは見過ごしちゃいけないなというものを見定めて、「絶対に忘れちゃいけない」って大事にしているんです。怒っているときは、いろんな表現が自分の中で膨れて満たされてくる。そのモードに入っていると、笑っていても、喜んでいても、泣いていても、オッケーになるというか、それこそ自由になれる感情なんですよね。だから、これからも怒りを有効活用したいと思っています。

『平行と垂直』

出演:安田章大 のん
伊島空 高山トモヒロ 谷村美月 福田転球 芦川誠 早織 久保田磨希
河野咲良 髙田幸季 武藤凪 林英世/神野三鈴 菅原大吉

監督:小林聖太郎
原案・脚本:山野海 音楽:富貴晴美
主題歌:浮 with 安田章大「話そう」

企画:安田章大
企画プロデュース:佐藤現
プロデューサー:樫﨑秀明 竹下新悟
撮影:大塚亮
照明:藤井勇
美術:須坂文昭
録音:西條博介
スクリプター:川野恵美
編集:宮島竜治
スタイリスト:山﨑忍
ヘアメイク:山井優
助監督:木川学
製作担当:土田守洋
キャスティング:伊藤尚哉
宣伝プロデューサー:丸山杏子
ASD 監修:辻井正次 伊庭葉子 浮貝明典

製作:「平行と垂直」製作委員会
(東映ビデオ、アスミック・エース、メディアプルポ、中京テレビ、テレビ大阪、ストームレーベルズ、ローソン、東映シーエム)
特別協力:大阪府堺市
取材協力:さくらんぼ教室、NPO法人アスペ・エルデの会、NPO法人PDDサポートセンターグリーンフォーレスト
後援:日本発達障害ネットワーク、日本自閉症協会 制作プロダクション:セントラル・アーツ 製作幹事・配給:東映ビデオ
©2026「平行と垂直」製作委員会
公式HP:https://www.toei-video.co.jp/heikoutosuichoku/
X/Instagram/TikTok:@heikou_suichoku

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