子どもの頃、世界のすべてだった友達。くだらないことで笑い合い、意味のない会話を交わし、いつまでも一緒にいられると思っていた。それなのに、ある出来事を境に友達との距離は変わってしまうことがある。離れてからも消えずに残り続ける記憶は、その後の人生に何をもたらすのだろう。
門脇康平が企画・脚本・監督を手がけた長編アニメーション映画『我々は宇宙人』は、平成の田舎町で出会った二人の少年の、30年にわたる関係を描く物語だ。「普通」であることに悩む内気な翼は、小学3年生の春、クラスの人気者で「特別」な存在である暁太郎(ぎょうたろう)と出会う。二人だけのかけがえのない時間を重ねていく一方で、日常は少しずつ歪みはじめ、ある出来事が二人の関係を大きく変えていく。
翼の声を演じたのは、俳優の坂東龍汰。北海道で育ち、小学1年生から高校3年生まで、10人ほどの同級生と濃密な時間を過ごした彼は、初めて脚本を読んだとき、「まるごと自分の人生を見たような感覚になった」という。
いつもそばにいた友達への憧れや、近すぎるがゆえに揺れ動いた関係。故郷を離れたからこそ気づいた人とのつながり。そして、年齢を重ねるなかで失いそうになる、美しさや楽しさを感じ取る心について。翼と暁太郎、どちらにもかつての自分を重ねた坂東に、今も彼を形づくっている人たちのことを聞いた。
※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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映画を見て思い出した幼少期の記憶。10年以上共に過ごしたクラスメイトとの関係
—坂東さんが声を演じた翼と、岡山天音さんが演じた暁太郎とのあいだには、二人にしかわからない濃密な世界が広がっています。坂東さんご自身の記憶や経験と重なるところはありましたか?
坂東:監督が僕のひとつ上ということもあるのか、最初に脚本を読んだ時にまるごと自分の人生を見たような感覚になりました。監督が拾い上げる細かなやりとりとその温度感に感銘を受けたというか。さらに試写を観たときには、心の奥にしまっていて、ほぼ忘れてしまっていたような記憶とか、匂い、温度が立ち上がってきました。こんな映画体験をしたのは、これが初めてだったので「うわっ、すごいことが起きるぞ」と強く思いました。そして、そう感じていたのは僕だけじゃなかったみたいで、試写を観た知り合いから続々と感想が送られてきてるんですよ。公開されたらどうなっちゃうのってびっくりしてます。

1997年、ニューヨーク生まれ。2017年にドラマ『セトウツミ』で俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。第32回日本映画批評家大賞新人男優賞(南俊子賞)、第122回ザテレビジョンドラマアカデミー賞助演男優賞を受賞。2026年には映画『爆弾』で第49回日本アカデミー賞新人俳優賞にも選ばれ、表現の幅を広げている。
—映画に「自分の人生を見た」と感じることはそうそうないですよね。なかでもご自身を重ねたのはどの場面ですか?
坂東:翼とお母さんの関係性って、めっちゃリアルじゃないですか? 留守番中ゲームをやっていた翼が、お母さんが帰ってきた気配に気づいてテレビを消して眠っているフリをする。でも、お母さんがテレビの液晶を触って直前までゲームをやっていたことがバレるところなんて、もうね。カンヌ国際映画祭で上映されたときも笑いが起きてましたけど。うちもおばあちゃんが買ってくれたたまごっちをお母さんに捨てられたことあるので、色々思い出しちゃいましたね。
暁太郎との関係に変化が生まれる描写も、まるで自分を見ているようでした。僕は小学1年生から高校3年生まで、ずっと同じクラスでしかもクラスメイトも10人くらいしかいなかったんです。だから、仲良くなったり、急に悪くなったりの繰り返しで。仲の悪さが深刻化しちゃうことも経験していたので、翼を演じながら自分の過去を思い出して「あの時、もっとこう言えたんじゃないか」「あんなことしなきゃよかったんじゃないか」とか、むちゃくちゃ考えましたね。
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2歳年上の姉の学年が憧れ。離れたからこそ芽生えた自我
—「普通」であることを悩む翼にとって、天真爛漫な暁太郎は憧れの存在です。学生時代の坂東さんにも背中を追いかけたくなる人はいましたか?
坂東:2歳年上の姉の学年には、憧れの友達がいっぱいいました。その子たちがしていることなんでも真似したくて、いつもくっついて歩いていましたね。姉が学校で幅を利かせていたので、その影響も大きかったと思います(笑)。姉たちの学年と仲良くなりすぎて、その代が卒業したあとは抜け殻のようになっちゃって。目標としていた先輩たちがいなくなってしまって、ここからどうするんだ? って、たくさん悩みました。でも、それを機にちゃんと自我が芽生えた感覚はありました。
誰かを真似るんじゃなくて、自分の脳みそで考えたアイディアを下の学年の子たちに見せたいと思うようになって、アニメを作り始めたり、お芝居に真剣に取り組んだり。自分と同じ学年の子たちは控えめな子が多かったから、僕一人だけエネルギーがありあまっちゃってどうしようみたいなこともあったんですが、力技でまわりを引っ張っていく楽しさを覚えました。そういった点では、暁太郎っぽいのかも。でも、大人になった今は、物事に対して積極的になれない翼の気持ちもわかります。

―暁太郎に似ているところもあったとのことですが、翼を演じる上で苦労した部分はありますか?
坂東:役者はどんな役でも、自分にないものを想像して作っていく作業をしなきゃいけないんですが、翼と暁太郎はどちらにも自分と重なる部分がありました。最初は、「え、暁太郎役じゃないんだ」って思ったんですが、今の僕なら翼を演じられると思ってもらったのかな、と。
—普段は、その人物が育ってきた環境なども想像しながら役を作っていくそうですね。今回はどのようにご自身の中で作り上げていきましたか?
坂東:それが、今回はほぼ役作りをしてないんですよ。声の演技はあまり経験がないので、作り込み過ぎてしまうと、自分が想像している声をなぞることしかできなくなっちゃう気がして。なのでわからない状態のままマイクの前に立つというアプローチをとりました。何も用意をしていない、つるんとした僕の声を聞いて、監督が「もうちょっとこうしてみて、ああしてみて」と言ってくれる。そのやりとりで、正解が見つかっていくのがワクワクするんです。僕と監督のお互いが思う翼像が合致していく瞬間はすごく感動的でした。
声優の仕事は、普段とは違うフィールドにお邪魔させてもらっている感覚。わからないことだらけだからこそ、めちゃくちゃ楽しい! お芝居を始めたてで、右も左もわからなかった頃の感覚になれました。僕は初心を忘れることを常々怖いことだと思っているんですが、今回また思い出せたので、失うものなんてないという気持ちでアタックできました。
