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アカデミー賞4冠『罪人たち』解説 黒人文化の搾取を描いた吸血鬼ホラーの傑作

2026.3.16

#MOVIE

通底する原風景としてのブルース

この複雑さは、吸血鬼となったスタックと年老いたサミーとのつながりにも見て取れる。貴金属を大量に身につける姿で再登場した彼は、前述した音楽産業の発展の歴史や、ビジネスとして成功したアフリカ系アメリカ人のラッパーを象徴するかのようだ。

(左から)スモークとサミー

しかし、サミーの歌うブルースは、立ち返る「原風景」であり、感情を揺り動かされるものだ。吸血鬼たちを魅了する音楽を奏でながらも、スモークとスタックから譲り受けたギターでヴァンパイアを殴りつけたサミーは、搾取から抵抗してきたアフリカ系アメリカ人の音楽のシンボルとして描かれている。

サミーの音楽は、吸血鬼になる前の、ほんの少しだけ存在した自由をスタックに思い出させる。美しい風景や、初めてサミーの歌声に触れた時の驚きと感動。発展していったブラックミュージックの寓意であると考えられる吸血鬼のスタックにとって、ブルースはルーツとして心の中にあり続けるのだ。

なお、サミーが車でブルースを初めて披露し、スタックが興奮して聴き入るところは、登場人物だけでなく観客にもブルースの魔法がかけられるような今作屈指のシーンの1つだ。『罪人たち』のブルーレイ特典として収録されたメイキング映像によれば、この場面の撮影において、マイケル・B・ジョーダンはマイルズ・ケイトンの演奏をその場で初めて聴かされ、実際に驚いたという。

また、ブルースの力が過去と現在をつなぎ、ヒップホップだけでなくアフリカ、東洋の音楽がDJミックスのようにシームレスに混ざり合う、この映画のハイライトと言える幻想的なダンスシーン。ここでは通常とは異なり、スコアを手がけたルドウィグ・ゴランソンが撮影前に音楽を制作し、俳優陣は現場でその音楽を流した状態で踊っている。

加えて、デルロイ・リンドー演じるデルタ・スリムが駅前でハーモニカを吹く箇所では、ブルース界の重鎮、ボビー・ラッシュが聴衆に紛れ、カメラに映らない位置で演奏していた。本作には、音楽への役者陣の反応、音楽に対する情感を真に迫ったものにするような工夫がいくつもなされ、そうした姿や表情がIMAX 70mmフィルムカメラとウルトラパナビジョンカメラを用いた壮大な映像によって記録されていることを付言しておきたい。

アフリカ系アメリカ人の文化的搾取と抵抗の歴史を、吸血鬼ホラーとしてエンターテイメント映画の文脈で問い直しながら、音楽的な遺産を壮大な映像で生き生きと描いた『罪人たち』。叔父との個人的な思い出から出発し、ジャンルミックス的なオリジナル映画を作り上げ、批評的にも興行的にも記録的な成功を収めた本作は、若き巨匠とも称されるライアン・クーグラー監督がさらなる飛躍を実現した映画として語り継がれるだろう。

映画『罪人たち』

監督・脚本・製作:ライアン・クーグラー
出演:マイケル・B・ジョーダン、ヘイリー・スタインフェルド、マイルズ・ケイトン、ジャック・オコンネル、ウンミ・モサク、ジェイミー・ローソン、オマー・ベンソン・ミラー、デルロイ・リンドー
公開日:2月13日(金)公開
配給:東和ピクチャーズ・東宝

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