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アカデミー賞4冠『罪人たち』解説 黒人文化の搾取を描いた吸血鬼ホラーの傑作

2026.3.16

#MOVIE

スモークとスタックが体現する「二重意識」

自分たちが作り上げた自由な空間であるダンスホールと、ブルースの才人であるサミーを吸血鬼から守るために奮闘するスモークたち。マイケル・B・ジョーダンは性格や振る舞いが異なる双子を見事に演じ分けているが、一卵性双生児であるスモークとスタックは、同化と搾取に晒されたアフリカ系アメリカ人のアイデンティティと歴史そのものだと考えられる。

(左から)スタックとスモーク

ここで参照したいのが、W.E.B.デュボイスが提唱した「二重意識」だ。1903年に出版され、アフリカンアメリカンスタディーズの古典として知られる『黒人のたましい』のなかで、デュボイスは次のように述べている。

アメリカの世界──それは、黒人に真の自我意識をすこしもあたえてはくれず、自己をもう一つの世界(白人世界)の啓示を通してのみ見ることを許してくれる世界である。この二重意識、このたえず自己を他者によってみるという感覚〔……〕もう一つの世界の巻尺で自己の魂をはかっている感覚〔……〕アメリカ人であることと黒人であること。二つの魂、二つの思想〔……〕アメリカ黒人の歴史は、この闘争の歴史である。すなわち、自我意識に目覚めた人間になろうとする熱望、二重の自己をいっそう立派ないっそう真実の自己に統一しようとする熱望の歴史なのである。

W.E.B.デュボイス(木島始、鮫島重俊、黄寅秀訳)『黒人のたましい』(岩波文庫、1992年、p.15-p.16)

デュボイスは人種差別的な世界において、白人の視線や価値観を内面化しながら自らを見つめる状態を「二重意識」と呼び、アフリカ系アメリカ人の歴史を異なる価値観がぶつかり合うものとして捉えた。スモークとスタックはこの複雑な自我、分裂と葛藤を体現した存在だと言える。

厳格なスモークと享楽的なスタック。異なるのは性格だけではない。兄のスモークが身につける青の帽子は、ダンスホールに訪れる労働者たちの服と同じ色だ。彼は家族やコミュニティ、そしてフードゥー(西アフリカの信仰とカトリックなどが融合した宗教であるブードゥーとは異なる)という、木の根などを用いる伝統的な民間信仰の施術師であるアニー(ウンミ・モサク)を吸血鬼やKKKから守ろうとする。まさにスモークはアフリカ系のルーツと強く結びつけられている。一方で、劇中の車や酒屋などと同じ色を、産業的なもの、享楽的なものを象徴する赤色をまとうスタックは、アフリカ系の血を持ちながら肌の色のために白人社会に属しているメアリー(ヘイリー・スタインフェルド)との情事をきっかけに吸血鬼に同化してしまう。

吸血鬼に襲われてしまうきっかけが、農園用の通貨ばかりでダンスホールの現金が足りないこと、すなわち2つの異なる世界の通貨に対する悩みだった点を含め、一卵性双生児であるスモークとスタックは、白人からの搾取と同化によって揺れ動くアフリカ系アメリカ人のアイデンティティ、デュボイスの言う分裂的な二重意識と、それによって形作られた歴史を表している。

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