木枯らし吹く2月某日、都立文化施設10箇所による令和8年度(2026年度)の展覧会 / 公演ラインナップの記者説明会が開催された。まだ詳細な情報が出ていないものも多数あるけれど、展覧会や公演タイトルを見ていくだけで心がほころぶ。
この記事ではアートライターの筆者が個人的な趣味でセレクトした、都立文化施設における「令和8年度の妄想アート鑑賞カレンダー」をお届けする。「こんなのあるんだ」という、記憶の中の小さな楔になれば幸いだ。
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【4月】4年の休館を経てついにリニューアルオープン! 新しい江戸博へ最速で

私なら、2026年度のアートはじめは「東京都江戸東京博物館(江戸博)」にする。4年間にわたって休館していた同館は、ついに2026年3月末日にリニューアルオープン。その後、4月から祝祭企画として『江戸東京博物館リニューアル記念特別展「大江戸礼賛」』が開催されるのだ(会期:2026年4月25日〜5月24日)。新しい江戸博の始まりを見届けるため、これはぜひ駆けつけたい!
同展では江戸博コレクションの逸品を軸に、江戸の都で花開いた武士 / 町人それぞれの文化を、迫力をもって紹介するという。甲冑や刀剣、婚礼道具や浮世絵などの多彩な展示によって、江戸、ひいては東京という街をもっと好きになることが出来そうだ。
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【5月】大本命の春期は、①伝説的交響曲の蘇演 / ②アメリカの巨匠の筆捌きにうっとり
春にはほかにも注目すべきコンテンツが集まっているが、中でも強く心惹かれたのは2件。

まずは東京芸術劇場(芸劇)で5月10日に上演される『水野修孝 /“交響的変容”』。こちらは、このたび同劇場の音楽部門の芸術監督に就任する指揮者・山田和樹プレゼンツの衝撃企画だ。
「“交響的変容”という楽曲は1992年に初演されたもので、当時の会場は幕張メッセ、演奏者は700名超、演奏時間3時間という凄まじいスケールの大作である。とても再演は不可能と言われてきたこの曲が、内容はそのままに、芸劇のコンサートホールで上演可能なサイズへとアレンジされて蘇るのだそうだ。日頃音楽コンサートにはあまり縁がない筆者でさえ、そこには一体どんな音楽体験が待っているのか気になってならない。
そしてもう1件は個人的な大本命、アメリカの巨匠アンドリュー・ワイエスの回顧展(会期:2026年4月28日〜7月5日)である。

会場は、開館100周年を迎えて大盛り上がり中の東京都美術館。大規模なワイエスの回顧展が開催されるのは、担当氏の言葉をそのまま借りるなら「日本ではかなり久しぶりのご紹介でございます」。アンドリュー・ワイエス(1917年〜2009年)は20世紀アメリカ具象絵画を代表する画家で、精緻な筆遣いや乾いた空気感が魅力である。今回の回顧展では、こちら側とあちら側を隔てる「窓」「扉」といった頻出モティーフを手がかりにワイエスの絵画世界を読み解き、創造の軌跡に迫るという。できれば混雑を避けたいし、ぜひとも会期の早いうちに行っておきたい展覧会である。
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【6月】東京都写真美術館で雨音の中、考えるのを止めてただ感じてみる
梅雨シーズンには、お気に入りの傘でもさして東京都写真美術館(TOP)へ出掛けたい……なんせ、恵比寿ガーデンプレイス内なので雨の日でも行きやすい! 狙い目は、年度内に数回開催されるTOPコレクション展だ。これは38000点を超える豊富な収蔵作品を独自の切り口で紹介する展覧会で、初めて来館する人から愛好家まで、誰もが名作を気軽に楽しめるよう企画されているというから、敷居が低くて大変ありがたい。今期第一弾は、その名も「TOPコレクション Don’t Think. Feel.」(会期:2026年4月2日〜6月21日)。ブルース・リーの名言「 Don’t Think. Feel.(考えるな。感じろ)」をキーワードに、五感に訴えかけ、感性の扉を開くような作品が展示されるという。個人的には、川内倫子の「Illuminance」シリーズが1セクションを構成するようなので、そこを非常に楽しみにしている。
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【7月】みんな大好き『はらぺこあおむし』の世界を堪能

強い陽射しで世界の色彩が一層鮮やかになる頃には、清澄白河にある東京都現代美術館(MOT)での『エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし』を楽しむのはどうだろう(会期:2026年4月25日〜7月26日)。同展は絵本『はらぺこあおむし』の日本語版出版50周年を記念して開催されるもので、エリック・カールが手がけた絵本原画(27冊も!)や、デザイナー時代のポスター作品などが米国のエリック・カール絵本美術館から多数来日する。
MOTで絵本作家の展覧会が開催されるのはなかなかレアな機会。今回の展示は、画家が子どもたちに向けた優しい眼差しはもちろんのこと、その作品のデザイン性の高さやアートとしての魅力を存分に伝えるものとなりそうだ。ポップな色彩とカタチは何気なく眺めているだけでも夏バテ防止に役立ちそうだし、気負わずに誰かを誘って出掛けたい。
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【8月】「セルフケア」としてのアートに触れる
そして暑さに心身ともにバテた頃、盛夏に訪れるなら、東京都渋谷公園通りギャラリーにて開催の企画展『心の声をきく わたしを生きる術(すべ)』だ(会期:2026年6月27日〜8月30日)。同ギャラリーは2020年にオープンした現代アートギャラリーで、特にアールブリュット(※)の紹介に力を入れている。
※直訳すると「ナマの芸術」。専門的な美術教育を受けていなかったり、障がいを持っていたり、多様な背景を持つ作家によるアートの総称。独自の発想や表現方法が注目される。
企画展『心の声をきく わたしを生きる術(すべ)』では「心の声をきく」ことに焦点を当て、自分の心地よさを通して自身と向き合い、作品を制作するアーティストたちが紹介される。

例として挙げられていた稲田萌子のドローイングは、ゆったりとした色鉛筆の線で、大きく柔らかい円が描かれていた。色鉛筆の擦れる音や感触、同じ動作の繰り返しを作家が偏愛しており、その制作自体が作家にとってのヒーリング行為になっている……そんな印象を受ける、魅力的な作品だった。セルフケアとしてのアートと向き合うことは、もしかすると鑑賞者にとっても自分を癒す体験になるかもしれない。まだ半年先だが、手帳にメモして密かに期待し続けたい展覧会である。
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【9月】傑作浮世絵と、襖絵のドラマに注目
秋が深まる前に、特別展『東京都美術館100周年記念 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱〜海を越えた江戸絵画』(会期:2026年7月25日〜10月18日)へ足を運んでおくのも忘れずに。

同展は泣く子も黙る文化の殿堂 / 大英博物館から選りすぐりの日本美術が来日する、都美100周年にふさわしい豪華な展覧会だ。40000点におよぶ大英コレクションの中から、今回は江戸時代の屏風、掛軸、絵巻のほか、歌麿、写楽、北斎、広重など8人のレジェンド浮世絵師による版画がやってくるという。

とりわけ注目したいのは、海を越えてバラバラになっていた襖絵の姉妹作品が、およそ150年ぶりに再会を果たすというポイントだ。大英博物館所蔵の『秋冬花鳥図襖』と、その裏面にあたるシアトル美術館の『琴棋書画仙人図襖』、そして青森県中泊町の宮越家が持つ『春景花鳥図襖』、および裏面の『名所風俗図(清見寺・三保松原)襖』の4作品である。これらがどうやら姉妹関係(一連のシリーズ作品)だぞ、と美術ニュースになったのが2024年秋のことで、それ以来TV特番が組まれたりしていたものの、実物が一堂に会するのはこれが初めて。日本 / イギリス / アメリカの国境を越えたランデブーは次いつ実現できるか分からないし、なんとしても観ておきたいところだ。
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【10月】おしゃれして行きたい、マリメッコ色に紅葉した庭園美術館
さて、あれもこれも楽しんでいるうちに季節は秋。芸術鑑賞にぴったりのシーズンには、やはりどの施設でも気合いの入った展覧会が企画されている(江戸博や都美で開催される浮世絵関連の大規模展覧会や、MOTや東京都写真美術館で開催される先駆的な女性作家の回顧展など⋯⋯)。
そんな中、反射的に「あっ行きたいなぁ」と思ったのが、10月〜12月の『マリメッコ展』だ(会期:2026年10月3日〜12月20日)。会場は目黒にある東京都庭園美術館(庭美)。旧宮家の邸宅だったお屋敷&庭園がそのまま美術館となった、アールデコ装飾の宝庫のような場所である。

『マリメッコ展』では、世界中で愛されているフィンランド発のデザインブランド「マリメッコ」の創造の美学を明らかにするべく、ビンテージドレスやファブリック、制作過程のイメージなどの貴重な資料が展示されるという。アールデコ様式とは時代も場所もまるで異なる、マリメッコの大胆なデザインが庭美の空間をどう彩るのか、非常に興味深い。同館名物の市松模様の床と組み合わせたらすごく映えるかも……なんて妄想も膨らむ。お隣にある自然教育園での紅葉狩りも併せて楽しめそうなので、これも誰かを誘って出掛けるのにぴったりな展覧会と言えるだろう。