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【2025年振り返り・演劇編②】餓鬼の断食、いいへんじなど若手に期待。AIと演劇

2026.2.12

#STAGE

市原佐都子/Q『キティ』 / 撮影:中谷利明 東京にこにこちゃん『ドント・ルック・バック・イン・マイボイス』/撮影:明田川志保 贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』 / Photo:Kengo Kawatsura フォースド・エンタテインメント『Signal to Noise』 / Photo by Kozo Kaneda

ジェンダーやセクシャリティを扱う作品は増えたのか

川添:現代性みたいな話だと、やまけんさんにジェンダーやセクシュアリティの話も聞きたいです。

山﨑:実はけっこうアンビバレントな気持ちを抱えています。作品内容にせよ、演劇界の環境に関することにせよ、一部のアーティストがしっかりジェンダーやセクシュアリティのことに取り組んでいる一方で、演劇界全体としては改善されているとは言い難いですし、そういうテーマをアップデートされたかたちで扱っている作品もそれほど増えているとは思えない。

例えば、KAATは2025年度のメインシーズンのタイトルに多様性を象徴させるかたちで「虹~RAINBOW~」を掲げました。でもラインナップにはセクシャルマイノリティの作品は1つも入っていなかった。「虹」にはセクシュアルマイノリティの連帯と抵抗のシンボルとして使われてきた歴史があるにも関わらず、です。「演劇界のおじさんって相変わらずダメじゃん」というのが僕の基本的な認識なんですよね。

川添:私はここ数年だと、例えばシェイクスピアの『リア王』を大竹しのぶが演じたり、『ハムレット』で吉田羊が主演を務めたのは、すごくワクワクすることでした。

大竹しのぶが初の男性役リア王に挑み、宮沢りえ、成田凌、生田絵梨花、鈴鹿央士、横田栄司、安藤玉恵などが結集して話題になった。

川添:女優さんに取材で『ハムレット』での役作りの話を聞けることに対して、ライターとして新しい時代を生きさせてもらっているという喜びがあったりします。日本はまだまだ超えなきゃいけない課題もありますが、世界の変化に演劇的に応答していくことで、ワクワクするところも、ちょっとあったりしますね。

山﨑:これは2025年の話じゃないんですが、パルコ劇場が山本卓卓を採用して、セクシャルマイノリティの人たちも出てくる『東京輪舞』という作品を上演したんです。2026年3月にもゲイカップルやノンバイナリーの人も出てくる『ジン・ロック・ライム』(山本卓卓作 / 白井晃演出)の上演が予定されているんですが、そういう作品を商業でやることの意義はすごく大きい。

川添:ナチス政権下の同性愛者を描いた『BENT』など、パルコ劇場は1980年代からいち早く同性愛やセクシャルマイノリティを題材とした重要な戯曲を上演してきた歴史がある劇場。私はパルコ劇場だからできることがあるんじゃないかなと期待しています。

山﨑:でもパルコ劇場ぐらいしかラディカルに変えているところがないという課題感もあります。秋に世田谷パブリックシアターで上演された『ここが海』(加藤拓也 作 / 演出)は、作品自体はかなり批判的に観ました。セクシュアルマイノリティに対する差別というのは社会構造の問題なのに、登場人物の感情面にフォーカスするために社会を描かない選択をしているように私には見えたからです。

一方で、この公演の主催であるアミューズが背景を説明する記事を公開したり、東京高等裁判所の同性婚にまつわる判決について、会社としてコメントを出していて(※)、その動きは評価されるべきだとも思っています。まだ十分ではないにせよ、そうやって言葉を発し、対話をするところからしかはじまらないからです。

※2025年11月28日、東京高等裁判所が、同性婚を認めていない現行制度は「憲法に違反しない」という判決を出したことを受けて、アミューズは「当社が考えるサステナビリティは、時代・場所・性別・思想の違いを超えて「誰もが良く生きられる自由」を実現すること(一部引用)」というコメントを出し、多くの反響を得た。

川添:ドラマの話になってしまうんですが、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』のクレジットには「ジェンダー監修」が入っていましたね。

山﨑:『ここが海』もトランスジェンダーの当事者の団体に聞いたりしていましたし、『東京輪舞』もコレクティブ・コネクトという団体がジェンダーとセクシャルマイノリティにまつわる表現監修として入ってました。ただ難しいのは、当事者だったらいいというわけでもないということです。ジェンダーやセクシュアリティに関する知識はもちろんですが、演劇や舞台に固有の問題や、創作面にも通じていないと、いい作品を作ることにはつながっていかない。意識は上がってきているけど、人材はまだそんなに多くはない気がしています。

丘田:人材が足りないこともですが、そこから派生して監修者の人選が偏ってしまったり、どの程度創作にコミットしているのか、できる環境であるのかが外側からは見えづらかったりと、新たな課題もあるなと感じます。私が、ジェンダーやセクシュアルマイノリティにまつわる話をするときに欠かせないと思っているのが、果てとチークです。旗揚げから一貫してそうした社会の問題を扱い続けられていますし、ノンバイナリーやトランスジェンダー女性が登場する『きみはともだち』(升味加耀作 / 演出)をはじめ、どの作品からも気付かされることが本当に多いです。

山﨑:演劇界は、果てとチークやいいへんじ、贅沢貧乏みたいな作り手たちをベースに議論をしていくべきだという気持ちが強くあります。果てとチークといいへんじは、作家が「当事者」であると明言していますよね。そこからは社会を変えようという強い気持ちを感じます。果てとチークは、「関係する団体への寄付先はこちらです」みたいな情報も当日パンフレットに載せています。そして、どちらの作品も上手い。そういう若手の劇団が出てきているのはいい変化だと思うんです。一方で、そのあたりのことに関しては上の世代が積み上げてきたことの結果が今の惨状なわけで、「いい変化」などといって外から評価することは許されないとも思います。上の世代として果たすべき責任、引き受ける責任についても考え、実践していく必要があると思っています。

『クワロマンティック』とは。いいへんじ・中島梓織が描く、親密な人間関係」を読む
いいへんじ『われわれなりのロマンティック』

丘田:性役割や先入観を問う作品という意味では、贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』の再演もありましたね。家事労働や妊娠 / 出産が当然のように女性のみの役割や問題とされてきた状態と、そこから男性と女性の立場が反転していく様が描かれているのがこの作品の特徴の一つです。この数年で、性や性差をめぐる問題や、妊娠 / 出産に対する社会の意識がどれくらい変わったのか、という意味でも興味深い再演でした。

贅沢貧乏『わかろうとはおもっているけど』 / Photo:Kengo Kawatsura
初演は2019年。女性の妊娠を機に変わる夫婦関係を、途中で男女が入れ替わる演出で巧妙に表現した。

ージェンダーやセクシャルマイノリティに関する演劇が増えてきた感覚があったんですが、そのような流れは2025年特に強まったものなのかが気になっています。

山﨑:これは演劇で完結する話ではないんですが、2020年ぐらいから、特にセクシュアルマイノリティ関係のことについて積極的に発信する20代の人たちが同時多発的に出てきました。

演劇に関しても、果てとチークやいいへんじを筆頭に、そういう同じ世代の空気を吸ってきた人たちの活躍が見えてきたのがこの数年なのかなと。ただ、ジェンダーやセクシャリティなんてすごく大きなくくりなわけで、本当はそういうテーマの作品が常に上演されているのが普通だとも思うんです。増えているように見えるかもしれませんが、私としてはまだまだ足りないと言いたいですね。

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