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ICE(アメリカ合衆国移民・関税執行局)への反発が噴出したスピーチ
バッド・バニー、そしてケンドリック・ラマー。こうして見ると、共通するのは、どうしてもアイデンティティの問題である。バッド・バニーはプエルトリカンで、ケンドリックはアフリカンアメリカンである。両者の受賞作は、その事実と切っても切れない関係にある。2010年代に大きなうねりになったアイデンティティポリティクスの闘争が、やはりそこには底流としてある。
思いだしてみれば、良くも悪くも2024年の大きなトピックになったケンドリック vs ドレイクのビーフも、アイデンティティの問題だったと言えなくもない。コミュニティに属する者、その文化の体現者と見なされているケンドリック、それに対してコミュニティやカルチャーの外側からやってきて、内部の共有財を表面的に掠めとって金儲けをしているだけだと批判されるドレイクとの対立でもあったのだから。「内側と外側」の闘争は、長らく議論されてきた文化盗用の問題を孕んでもいた。

今年のグラミー賞について言っておかなければならないのは、ICEことアメリカ合衆国移民・関税執行局の問題が、伏流するテーマのひとつとして存在していたことである。
ミネソタ州ミネアポリスで1月7日(水)に作家 / 詩人のレネー・グッドが、24日(土)に看護師のアレックス・プレッティが、ICEの捜査官に撃たれて亡くなった。これらの事件は全米を震撼させ、大規模な抗議運動に発展していったことは周知の事実だろう。強引な取り締まりなど、移民政策を厳しく推しすすめている第2次トランプ政権下のひずみが爆発した事態だと見ていい。
そうしたなかでおこなわれたグラミー賞では、オリヴィア・ディーン、ケラーニ、シャブージーなど、受賞スピーチをおこなった者の多くが移民の問題に直接的ないし間接的に言及したが、バッド・バニーは「ICE out」というデモ隊のシュプレヒコールをそのまま引いて、反ICEの態度を明確に宣言した。ビリー・アイリッシュは、「盗まれた土地では不法な人などいない」と米国史にまで踏みこんだスピーチをしている。またトランプ支持およびMAGAの思想への共感を明言し、陰謀論めいた主張を続けているニッキー・ミナージュを司会のトレヴァー・ノアが皮肉っぽいジョークで茶化したことも話題になった。
他方では、バッド・バニーがスーパーボウルのハーフタイムショーに出演することに対し、英語で歌わないことや反トランプの思想を理由に、MAGAの信奉者たちが反発しているという。
