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第68回グラミー賞を総括。バッド・バニーの象徴的な受賞と「音楽と政治」

2026.2.10

#MUSIC

© Getty Images
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ケンドリック・ラマーの受賞曲に刻まれた、アフリカンアメリカン音楽の系譜と継承

今回、最多の9部門にノミネートされ、5部門で受賞し、受賞数も最多となったのがケンドリック・ラマーである。ジェイ・Zを超えてグラミー賞を最多受賞したラッパーになっただけでなく、2年連続で5部門以上を受賞したことはグラミー史上スティーヴィー・ワンダーとケンドリックのみである。バッド・バニーと同様に、ケンドリックの受賞結果も歴史的な快挙だった。

最優秀ラップアルバム賞に選ばれた2024年の『GNX』は、デビューアルバムの『Section.80』以降、コンセプト面でも音楽面でも毎回練りあげた作品を出してきたケンドリックのキャリアにおいて、ある意味でもっともラフなアルバムだった。古巣のレーベルTDEから離れた第一歩であり、短尺かつコンセプチュアルでもないが、自身が所属する西海岸の音楽文化や父との思い出を打ちだした同作は、きわめて内省的でヘビーだった前作『Mr. Morale & The Big Steppers』と明確な好対照をなしていた。そんな作品のなかから“luther”というポップでメロディアスなR&B寄りのヒットが生まれ(実際、最優秀メロディックラップパフォーマンス賞も受賞している)、今年のグラミー賞の顔になったことは興味深い。

もともと“luther”は、曲名どおりルーサー・ヴァンドロスとシェリル・リンの1982年のデュエットソング“If This World Were Mine”をサンプリングし、美しく敷いた曲である。ルーサー&シェリルの組み合わせが、ここではケンドリックとSZAのカップルになっているわけだ。さらに遡れば、原曲は、ソウル史上もっとも重要なデュエットの一組と言っていいマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルが1967年に歌っていたものである。Tamla(Motown)時代のエレガントなソウルから、コンテンポラリーR&Bの全盛期の記憶を封じこめたクワイエットストーム、そしてヒップホップ以降のR&Bへ。“luther”には、アフリカンアメリカンによるポップミュージックの系譜と継承が刻まれていると言っても言いすぎではない。

一見、ラフかつソリッドなアルバム『GNX』、そしてセンチメンタルで親しみやすい曲“luther”が、ブラックミュージックの歴史を背負い、前進もさせていることに気づかされる。今回の受賞結果には、そんな発見もあった。

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