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西美『オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語』で堪能する、印象派の意外な魅力

2025.10.31

#ART

展覧会フィナーレを飾るのは、モネの『睡蓮』

第4章展示風景

第4章のテーマは「室内装飾」。花の静物画などで室内に自然を取り込んでいたのがさらに発展し、絵画は扉などを飾る装飾パネルに、壁画に……と、サイズ的にも用途的にもどんどん拡大していく。その背景には、19世紀に相次いで開催された万国博覧会によって産業が振興し、それまで位が低いとみなされてきた装飾美術の評価がグンと高まったということがあるだろう。公共建築の装飾に携わることは富と名声に直結し、多くの画家たちの熱望するところとなったという。

参考出品『モリゾの応接間兼アトリエの再現模型』

面白いのは、展示室の片隅に参考出品された『モリゾの応接間兼アトリエの再現模型』である。印象派の女性画家ベルト・モリゾ(ちなみにマネの義理の妹)が自ら設計したアトリエの様子を、窓から覗き込む形で体感できる模型だ。ピンク色の壁の高い位置に掲げられているのは、ロココ美術の巨匠ブーシェによる『ウェルカヌスの鍛冶場』の一部分を、モリゾ自身が模写した絵画だという。なんと鏡の横幅と合うように、名画を勝手にトリミングして装飾に使用している! と軽く衝撃を受けた。筆者は展覧会の宣伝ポスター、チラシやアートグッズでしばしば絵画作品の一部が切り抜かれることに違和感を感じるほうだったのだが、ちょっと頭が固かったかもしれない、と反省。19世紀から、すでに人と絵画の関係はもっと自由だったのかもしれない。

左:エドゥアール・マネ『花の中の子ども(ジャック・オシュデ)』(1876年)国立西洋美術館 / 右:クロード・モネ『七面鳥』(1877年)

こちらは印象派の大パトロンだった実業家、エルネスト・オシュデの城館を飾るために製作された2点。どちらも室内装飾に良さそうな親しみやすい雰囲気の作品だが、それでいて素早い筆致や大胆な構図には、ふたりの画家が自分らしさを明確に組み入れているのがわかる。オシュデはモネの『印象、日の出』を購入したことで知られる、いわば印象派の始まりの支援者である。だからこそ単純なほのぼの日常系絵画で済ませるのではなく、マネ、モネは現代的審美眼を持つこの城主にふさわしい、攻めの表現をもって作品を仕上げたのだろう。

第4章展示風景

そして印象派による装飾芸術への挑戦は、最終的にモネによる『睡蓮』の大装飾画でひとつの到達点を見たといえるだろう。モネは巨大装飾パネルで鑑賞者を取り囲む構想によって、室内にいながらにして自然に没入する体験を創造したのだ。最後の展示室ではモネの睡蓮関連作品のほか、カイユボットが自邸の壁面装飾のために制作した未完の大型作品『ヒナギクの花壇』(写真左手)も見ることができる。よく見ると何箇所か描き込みが甘い部分があり、ここにはきっと家具がくる予定だったのかな……なんて想像をするのも楽しい。

手前:クロード・モネ『睡蓮』(1916年) / 国立西洋美術館

展覧会フィナーレを飾る、モネの『睡蓮』。本作は国立西洋美術館の礎となる松方コレクションを築いた実業家・松方幸次郎がモネの元へ赴き、画家から直接購入したものだ。数多く存在する睡蓮たちの中でも、日本とモネの親密な関係を象徴する一作といえるのではないだろうか。

同・部分

いつ何度見ても、『睡蓮』の色彩には心揺さぶられる。この作品では花のピンクが特に鮮烈なので、ぜひ近くでも観察を!

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