「イマーシブ・アート・ロックバンド」という聞き慣れない言葉で表現される5人組、Khaki。オルタナティブなギターロックを中心に、ジャズやプログレなどさまざまなジャンルを飲み込み独自に解釈した音楽は、ともすれば「難解」というレッテルを貼られてしまう。
しかし、2025年5月に発表されたアルバム『Hakko』はその2文字に収まらないポップネスも内包していることは、一聴すれば分かる。
自分たちの会社を立ち上げ、リリース業務やマネージメント、プロモーションに至るまでセルフでこなす彼ら。音楽はもちろん、バンド運営に関しても唯一無二のユニークを発揮しており、存在そのものに興味を掻き立てられる。
アルバムリリースが一段落し、11月22日(土)に予定されている初ホールワンマンを経て、次のフェーズに向かおうしているKhaki。ギターボーカルの平川直人と、ドラムで社長の橋本拓己にバンドの現在地を語ってもらった。
INDEX

2018年に早稲田大学のバンドサークルにて結成。東京を拠点に活動する5人組、イマーシブ・アートロックバンド。メンバー全員が作詞・作曲を担当し、音源制作・MVやグッズ・個人事務所の設立などをバンドメンバー自らで企画制作。独創的な手法で躍進を続け、注目を集めている。2024年にはバンド最大規模となるワンマンライブ「ソロ・コンサート」をLIQUIDROOMにて開催し、チケットはソールドアウト。2025年にはバンドとして初となる全国ツアー「Khaki LIVE TOUR 2025」を開催。11月には初ホール公演「 ソロ・コンサート / Hakko 」を開催する。
「僕らは一生懸命やってるだけなんですよ。今日も待ち合わせの30分前に来てるし(笑)」(平川)
━『Hakko』のリリースから半年弱たちましたが、振り返ってみていかがですか?
平川:あの時期は集中しすぎてて、あんまり覚えてないという感じで……。最近のライブは『Hakko』以外の曲もよくやってるから、レコーディングの記憶が薄れてきてますね。

橋本:そうっすね、あんまり覚えてない(笑)。めっちゃ必死にやっていた感覚はあります。

平川:4年ぶりのアルバムだったから、とにかく早く作らなくちゃみたいな感じで。録ってる最中はプロモーションとかリリースした後のライブのこととか、全然なんにも考えられなかった。
橋本:結果的に今年の5月にアルバムは出ましたけど、元々は2024年末くらいに出したかったんです。それが、どんどん時間が経っちゃって。でも、すごく久しぶりのアルバムだから、プロモーションも力を入れましたね。
━トリプルファイヤーの吉田靖直さんやダウ90000の中島百依子さん、でか美ちゃんなど、多彩な方々が『Hakko』を聴いている動画をアップしたり、プロモーションも独特でした。
橋本:他の人と同じやり方をしても面白くないので。こっちもやってて楽しいほうがいいから、みんなで考えてやってます。でも、最近は「Khakiならちょっと変なことをやるだろう」みたいに思われているのを強く感じるようになって、若干やりにくいです。
平川:僕らは一生懸命やってるだけなんですよ。今日も待ち合わせの30分前に来てるし(笑)。なのに、スカしてる連中だと思われてるんですよね。本当にやりづらい。超最悪ですよ。
━自分たちがいいと思うことをやってるだけなのに、という。
平川:実際に会うと「スカしてないんですね」って言われますから。どんなバンドだと思ってたんだ、って(笑)。でも、他のバンドと違うプロモーションをしないと興味を引けないのは事実なので。どうすればいいんだろう。あんまりがんばらないほうがいいのかな。
橋本:いや、そこはがんばったほうがいいと思う。

━プロモーションに関してもメンバーみんなのコンセンサスをとって進めているんですか?
橋本:僕とマネージャーで主に考えて、バンドに投げてみんなで揉んで「これでいきましょう」というパターンが多いですね。『Hakko』の視聴映像の人選に関しては、平川が中心になって進めました。
平川:知り合いを辿ればギリギリ頼めるかどうかのラインを攻めました。ちゃんとみんな変な感じになって面白かったです。
━近年、音楽を分析して解説するようなコンテンツも増えたので、このプロモーション映像もそういうものかと思っていたんです。「Khakiのこの曲はここで転調して、リズムも変化しているからすごいんです」というような。でも、基本的にみなさん「すげー」と言ってるだけという。バンドからの「このアルバムはこんな感じで聴いてください」という意思表明を感じました。
橋本:うん、そうですね。
平川:みんな、この映像を撮った時が初めて聴くタイミングだったんですよ。先立ってリスナーの反応を表してくれたというか。もし気に入らなかったとしてもそれは僕らが悪いから、反応としてはどれも100点なんですよね。
橋本:単純に、アルバムを聴いてる人のリアクションだけ見たら、気になると思うんですよね。「どんな音楽なんだ?」って。ただ、編集は大変でした。僕の同級生(小森翔太)とか、マジで何も喋らなかったんで(笑)。
━ずっと無言で最後に「すごい」とだけ言うのは、逆に説得力がありました。無理矢理褒めてるわけじゃないんだなと。
橋本:構成作家の飯塚大悟さんとでか美ちゃんはずっと喋ってくれてて、めちゃくちゃ編集しやすかったです。素晴らしいなと思いました。
INDEX
Khakiのことが気になってる業界人は今すぐ連絡を
━アルバムリリースに伴って、初めての全国ツアーにも出られました。各地でゲストアーティストの出演がありましたが、そのラインナップを見るとTexas 3000やANORAK!、NOT WONKとあって、「なるほど、Khakiはこういうシーンにいるのか」と早合点しそうになったんですが、水中、それは苦しい、中村佳穂さん、The Novembersもいて、これは一筋縄ではいかないなと。お二人は「こういうシーンの中にいる」という認識はありますか?
平川:うーん、ないですね。メンバー5人とマネージャーさんだけでやってるから、主観的な見方しかできないので。このツアーのゲストも、呼んだら出てもらえて嬉しいというだけです。シーンの恩恵とかも受けたことがないからなあ。

橋本:僕はどこかのシーンに入りたいみたいな気持ちはあまりなくて、自分たち発信で作っていけたらいいなと思います。
━ツアーのゲストを見ていても、それぞれのバンドに共通点はないけど、Khakiが真ん中に立つと相関図が成立する感じがします。
平川:おお、めっちゃ嬉しい。「〇〇系のバンド」だからじゃなくて、ただかっこいいと思って呼んだので。こういうのを大きくしていって、フェスとかやってみたい。
橋本:フェスはやりたいね。
━橋本さんは事務所「ア柿印」の社長でもあるので、こういったライブ制作とかバンド運営の中心になる場面も多いと思いますが、そもそも社長になった経緯は?
橋本:みんなやりたくなさそうだったんで(笑)。会社化する前から運営や経理は僕がメインでやっていたんです。みんなも「社長は橋本くんがいいんじゃない」と言ってくれたんで「じゃあやります」と。

平川:あまりにも他のメンバーがそういうのに向いてないからね(笑)。
橋本:裏方的なことをやるのもむしろ好きですし。でも、最近はちょっとしんどくなってきました。個人でデザインと映像の仕事もやっているので、その兼ね合いもあるんですよね。バンドがめちゃくちゃ忙しい時に個人の依頼も入ってきて、月末の経理も重なってパンクしそうになるとか。
━これまでもメンバーが裏方も兼務して運営しているバンドはありましたけど、大抵はメジャーデビューして地盤を築いた後にそういった形式を選んでいるか、アンダーグラウンドでマイペースに活動しているかのどちらかが多いと思うんです。Khakiのように初めから自分たちでやりつつ、フィールドを広げていく活動をしているのは、ロックバンドだと珍しいのかなと。
平川:本当に誰にも構ってもらえないから自分たちでやり始めただけなんですよ。今も誰からも何も言われないですから。対バンした若いバンドとかが「SoundCloudに音源あげたらレーベルから連絡きました」とか言ってるのを聞くと、「そんなことあんの!?」って思う(笑)。すごいなって。

平川:レコード会社とか事務所とかと一緒にやることになったら、やっぱり自分たちだけでやるほうがいいと思うかもしれないけど、比較できないので。これしかやり方を知らないから、あんまり分からないです。事務所と契約してる人が毎日インスタに曲をあげてたりするのを見るけど、契約したら俺たちもやるのかな?
橋本:やるんじゃない? 仕事だし。自分たちで色々やってきましたけど、やっぱり個人でできる範囲は決まってるんですよね。規模が大きくなってるバンドのみなさんはCMに使われたり街で流れたりするじゃないですか。そういう正規のプロモーションをやってみたいという気持ちはありますね。

━いわゆる音楽業界的な動きというか。
橋本:僕らのことを知らない人なんてめちゃくちゃいっぱいいるんで、街中とかで流れるだけで全然違ってくると思うんですよね。僕らががんばってSNSをやるよりも、いろんな人が聴いてくれるんだろうなと。難しいですよね。
━「Khakiのことが気になってる業界人は今すぐ連絡くれ」ってことですよね。
平川:そうですよ。遅刻もしないし、人柄もいいし。酒も飲めるし(笑)。『Hakko』はスペースシャワーの流通なんですけど、色々な縁で繋がって、僕らから相談する形で一緒にやることになったんです。たまにそういうことがあるとものすごく嬉しくて。がんばっちゃいますよね。
INDEX
売れ線のポップスも「5人の総意でやらないと意味がない」
━「自分たちはいいと思ってやってるだけなのにな」という葛藤というか、世間との距離感がKhakiというバンドの面白さにつながっていると思うんです。変わったバンド扱いされてるけど、当人たちはいたってポップなことをやっているという。
平川:そうそう、居酒屋で好きなおつまみを自信満々で注文したら、みんな全然手をつけないなって感じで。
━ホヤの塩辛みたいな。
平川:そこまで珍味じゃないですけど(笑)。俺は美味いと思ってるのにっていう。ずっと気まずいっすよね。いわゆる売れ線のポップスをマンキンでやってみたい気持ちもあるんですよ。僕ら含めて、インディーズの人は売れてる曲に対して「それをやることもできるけど選択しません」みたいなスタンスをとるけど、実際にはやろうと思ってもできないことが多いから。僕らもそういう保険をかけてる側だけど、思いっきりやってみてもいい時期なのかなとも思います。

━今までのキャリアでそういうポップさに振り切ろうと思ったことはなかったですか?
平川:なかったですね。僕らがかっこいいと思うことをやればかっこいいでしょ、という感じでやってきたので。でも、企画みたいに歌を作るのも楽しそうだし、絶対難しいだろうし。インディーズバンドだからって、それに挑戦しないで終わるのも寂しいなという気持ちはあります。まあ、メンバー5人の総意でやらないと意味がないんで。どうなるか分からないですけど。
━Khakiの場合、全員が売れ線のポップスを目指して、それぞれちょっとずつ認識が違って予想外のものが出来上がる気もします。これこそバンドの醍醐味というか。
平川:確かに。それでうまくいけばいいですけどね。今はアルバムを出してツアーが終わった段階で、まだ次をどんな感じにするかは決まってないんですよね。
橋本:今日もこの後にミーティングするんで、そういう話もするかなと思います。

━今年はリリース、ツアー、『FUJI ROCK FESTIVAL』出演などもあり、以前に比べてもバンド活動がかなり上向きだったんじゃないかと思うんですが、いかがですか?
橋本:上向き度でいえば、もっと昔のほうが感じてました。最初のMVを公開してそれが思った以上に再生されて、フォロワーがどんと増えて、誘われるライブの規模が大きくなった頃。今まで聴いてたアーティストと同じライブに出たりして、あの時は「めっちゃ上向きだな」とダイレクトに感じてました。
━0が1になる瞬間というか。
橋本:そうですね。最近はそういう感じはあまりないです。
━そこに焦ったりしますか?
橋本:僕はちょっと感じてますね。都内でライブをやったら割とお客さんは来てくれるけど、ちょっと地方に行ったら集客が弱くて。これはどのバンドもそうなのかもしれないですけど。でも、それはまだ地方に開拓の余地があるっていうことだから、今後は行ったことのない場所でやってみようと考えてます。

━まだまだ可能性もあるぞ、という。
橋本:そうですね。もしかしたら海外にもあるかもしれないし。
INDEX
『フジロック』、ホールワンマンを経て、次なるKhakiの行き先
━Khakiは音楽性はもちろん、毎年『前期定例』と『後期定例』を開催したり、活動面でもコンセプチュアルで構築性が高い印象があります。でも、お話を聞いているとけっこうラフなのでは? とも思えてきました。
橋本:めちゃくちゃ行き当たりばったりなんですけど、緻密に見せてます。
平川:我々がそう見えるのは、背が高いからだけです(笑)。

━そのギャップが面白いですよね。
平川:めっちゃ運がいいと思います。2年前に『Undercurrent』というシングルを出して、#1から#3の3曲を収録したんです。リリース直後にやった自主企画のタイトルを『Undercurrent#1』にしたんですけど、決まった後に「これ、次の企画は#2にすればいいじゃん。#3をワンマンにすればきれいじゃない?」と気付いて。
平川:『Hakko』をリリースした時の『前期定例』も、直前まではゲストを誰にしようか考えてたんですけど、「KhakiとKhakiの対バンでいいじゃん」と。今までもゲストはシークレットでやってたんで、そこも上手くハマりました。でも、側から見たら全部初めから計画してるように感じますよね。

━『Undercurrent#2』のゲストに令和ロマンを呼んでいたのも、今となっては「Khakiも独自のやり方を貫いて天下を獲る」という確信犯的なステートメントに見えるんですが、当時はまだ令和ロマンがM-1で優勝する前なんですよね。
平川:そう、たまたまなんですよ。僕がすごくお笑いが好きで、面白いなと思って呼んだだけで。だって、令和ロマンがあんなことになるとは思わないじゃないですか(笑)。たまたまがたまたまに見えないのは運がいいと思うし、そのせいで人知れず息苦しくなっているような気もします。

橋本:全部が全部何も考えてないわけじゃないんですけどね。予想外の方向に転がっていったものを、「お、そっちにいった?」「意外といいんじゃない?」みたいな感じで進めていっているだけで。
━空中でいくらバタバタしていても、着地はきれいに決める、という。
平川:強力な決定権を持った人がいないんで、着地するまで変え続けられるんですよ。よくいえば民主主義的なバンドですよね。『Hakko』も、かなり民主主義的なアルバムだと思います。曲調もバラバラだし。果たしてそれがいいのかもわからないですけど。一本筋の通ったコンセプトアルバムみたいなものがあっても面白いし、音楽的にはまだまだやることいっぱいあるなと思います。
━11月22日(土)には初のホールワンマンが控えていますが、今年の締めくくりとしてこれがあり、2026年には次のステップに進むという、これも非常にきれいな流れです。
橋本:ツアーとは関係なくホールでライブをするお話をいただいてたんですけど、これも繋げられると思って。各地で『発行』とか『発港』とか、ツアーのタイトルを変えてやってきたんですけど、最後にホールワンマンのタイトルを『Hakko』にすれば伏線回収になるなと。思いついた時にはマネージャーと2人で拍手しました(笑)。

━どんなライブになりそうですか?
橋本:お客さんとしてライブを観に行った時、2時間立ちっぱなしだときついこともあるんですよね。ホールだと座れますし、周りの人のことも気にせず観れるから、普段のライブよりも入り込めると思うんですよ。舞台セットをどう組むかはまだ決まってないですけど、映画を観るような感じでのぞんでもらえるライブにできたらいいなと思ってます。

平川:お客さんを泣かせたいですね。去年のリキッドルームでのワンマンは、大きい会場で初めてのワンマンで「これはすごい!」と思ったんで、今回はそこに感動を足したい。たぶん、Khakiをマジで好きな人が来てくれると思うんで、何か還元できたらなと。演出なのか演奏なのか、とにかく「来てくれてありがとう」という気持ちを普段より出したい気持ちがあります。

━Khakiの音楽はいろいろな要素から成り立っている分、どんなシチュエーションのライブでも似合うと思います。やってみたい場所はありますか?
橋本:今年、『フジロック』の苗場食堂に出たので、もっとでかいステージでやりたい気持ちになりました。グリーンステージ、出たいですね。海外にも行きたいし。

━海外との親和性も高いでしょうね。
橋本:アジア圏のお客さんには喜んでもらえそうな気もしますし、アメリカとかヨーロッパに行けたら僕らは普通に嬉しいですし。
平川:普段聴いてる音楽はアメリカ、ヨーロッパのものが多いから、自分たちの音楽を聴かせてどういうリアクションが返ってくるのか。それを見てみたいです。
『ソロ・コンサート/Hakko』

2025年11月22日(土)
会場:ヒューリックホール東京
時間:17:00/18:00
入場:【一般】¥4,800【U-23割】¥3,800
座席:全席指定
▽チケットぴあ
https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=MB150046
『exPoP!!!!!再会 2025』

日程:2025/11/9(日)時間:13:00〜21:40
※リストバンド交換は11:00〜
※O-EASTは12:00開場、他会場は本番開始30分前開場
会場:Spotify O-nest、Spotify O-EAST、Spotify O-west、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、WOMB LIVE、7th FLOOR(全7会場)
出演:
GEZAN、堀込泰行、OGRE YOU ASSHOLE、WONK、柴田聡子、Homecomings、Summer Eye Sound Syndicate、浦上想起・ミニマム・コントロール、優河(band set)、阿部芙蓉美、トクマルシューゴ、LOSTAGE、Helsinki Lambda Club、downy、No Buses、Dos Monos、寺尾紗穂、brkfstblend、Khaki、どんぐりず、Maika Loubté、パソコン音楽クラブ、LAUSBUB、んoon、ゆうらん船、SuiseiNoboAz、downt、Nikoん、天国旅行、HOME、 和久井沙良、北村蕗、SHIN KOKAWA sublime band[tp類家心平/pf魚返明未/ds.粉川心]、HALLEY、ゆっきゅん、浮、梅井美咲 、Ålborg、井上園子(Band set)、Texas 3000、Qoodow、じぐざぐづ、Arche、風呂敷
■タイムテーブル詳細はこちら
https://expopfes.jp/