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春風亭一之輔に教えてもらう、落語の魅力。笑いだけではない、しみじみとした奥深さ

2025.11.21

#STAGE

倫理観とは反対側にある芸能

―好きな芸人さんをロングスパンで追っていくと、その人の年齢によって語り方が変化していくのも面白いですよね。このスピードの速い消費社会にあって、長い目で捉えていく楽しさ、演者と観客が舞台を挟んで人間的に付き合っていくような関係性というか。

一之輔:そうですね。結婚した、子どもが生まれた、真打(※)になった……と、環境が変化すれば話の捉え方も変わるし、今まで全く感情移入できていなかった登場人物の気持ちがふっと掴めたりする。僕は23歳で入門しましたが、仮に80歳まで高座に上がることができれば、噺家生活約60年、年齢を重ねることで解釈もどんどん変化していくと思います。

※落語家の階級で最高位にあたり、寄席興行の最後にトリを務める資格がある。

―落語って実はほのぼのと明るい笑いだけではなくて、人情噺や怪談もありますし、不条理で絶望的な状況を扱ったり、残酷なブラックユーモアもある。人間は所詮みっともなくて情けないのがデフォルト設定、社会の底辺から見た本質を鋭く突くような噺もありますし、驚くほどの深淵さがあるのも大きな魅力です。例えば『らくだ』なんかには、死を笑い飛ばすような怖さや大胆さも感じます。

一之輔:『らくだ』の登場人物は粗暴なやくざ者と朴訥で正直者の屑屋さん(※)、長屋の人たちとのコミカルなやり取りで展開しますが、オープニングでいきなり人が死んでいますからね。基本的に倫理観とは反対側にある芸能だとは思うんですよ。決して聖人君子は出てこないし、かといって心底悪い人もそう出てこない。「人間なんて、ある日あっけなく死んじゃうよ」っていう、そういう人生観なのかな。近所のお弔いを手伝ったりするのもしょっちゅうで、死が今よりもずっと日常にあった感覚が残っているんでしょうね。僕はそういうところも好きです。怪談噺では人間のドロドロした部分も描きますし、それを一人の人間が、座って喋って表現する芸能はそうないでしょう。これに接することなく一生を終えるのは、ちょっともったいない感じがしますね。

※落語に登場する、廃品を回収して売買する業者。

―そうかと思うと落語には、本当にバカバカしい可笑しさ、なんてことない日常を愛情を持って見つめる素朴な視点もあります。例えば師匠の『味噌蔵』は、カツ煮の場面が秀逸です。

一之輔:『味噌蔵』は、ケチな旦那が出かけた隙に、奉公人たちが「鬼のいぬ間に贅沢しよう」と画策する噺ですが……「番頭さんのカツ煮の思い出」なんてくだりを、7〜8分かけて膨らませるのは僕しかいないでしょうね(笑)。

―揚げたてのとんかつをザクザク切ったり、甘辛いタレをかけて卵でとじたり……カツ煮ができるまでを一之輔さんは臨場感たっぷりに語ります。それをワクワクしながら眺めた幼い日の番頭さんの心の声が並走するのも愛らしくて。先日、末廣亭で聴いた時は、少年が口に運んだ瞬間に客席からワッと拍手喝采でした(笑)。

一之輔:あれはもう、自分がやりたいからやっています。落語家それぞれの演出が許される場面ですよね。

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