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原作から追加されたシーンと、映画ならではの良さ
ー原作のエッセイは、ドキュメンタリーのようなところもありました。肉親が突然亡くなってしまったときに、残された家族がどんなことをすべきなのかということも書かれていて、いま時代的に注目されているテーマ性を感じるところもあったんですが、村井さんにはそういう意図はあったんでしょうか?
村井:書いているときは、とにかく兄の死を書かないといけないという、それだけの気持ちでした。後になって、孤独死って増えているし、人々の関心があることなんだなと気付きました。実際、兄の住んでいた家の大家さんも慣れていたし、「ここに電話して、こうして〜」というシステムができているのも垣間見たので、珍しいことではないんだなと後から思いましたね。
あと、私がエッセイを書いたときは、ゴールも決まっていたんですね。私と、加奈子ちゃんとその子どもの良一くんは、別の人生を行く。多賀城駅で解散するところがラスト、と思って書いていました。

ーお互いに、原作の良さ、映画の良さをどうお感じになられていますか?
中野:原作ものの映画化には「読んでから見るのか、見てから読むのか」という定番の問いがあると思うんですけど、今回はぜひ、読んでから見てもらいたいなと思います。ストーリーがわかって見てもいい話だし、そこから膨らませて映像ならではの表現をしているので、より面白く感じてもらえるのかなと。
村井:紙の本ではできないことが映画という表現でされているので、読んでから見てもらってもいいし、見てから読んでもらっても、どちらでもいいなと思います。世界が広がった感じで、それを映画で感じてもらえたらなと思います。本だけではたどり着けない可能性を感じましたね。
中野:僕の思いや経験も入ってしまうし、入れたい部分もあって。自分の家族の死の経験も、間接的に投影されていると思います。あと、映画って120分で世界を作らないといけないので、原作とは違う表現もどうしても必要になってくるんですね。でも、オリジナルな部分を付け足しても、この原作が持っている空気感や趣旨は変えないようにしたいと思っています。
ーオリジナルの部分はどんなところですか?
中野:手電話のところと、新幹線のシーンですね。火葬場でお箸の持ち方を直すところもオリジナルです。あと、村井さんがトークイベントで「家族とはなんですか?」って聞かれたときに「わかりません」っていうシーンがあるんですけど、それは実際にあったことで、それが僕の中では一番心に残っているところだったんで、その問いに対しての僕の思いを、映画の中から伝えたかったんです。僕は、お兄ちゃんがいるから自分がいるってことを村井さんが感じているのではないかと思って。家族の定義はないけれど、それぞれの家族にとっての定義はある。この映画の中での「家族とはなんですか?」の答えを、僕なりに描きたいという思いがありました。
