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薄明かりのお寺で音を通じて自分と向き合う新たな体験
そんな今年のAnalog Marketを象徴するのが、Audio-Technicaと米国OMA(Oswalds Mill Audio)によるコラボ企画『Deep Listening」だ。

OMAは米ペンシルベニア州の築250年の石造り製粉所を拠点に、1930年代の劇場用スピーカーや真空管アンプを現代に蘇らせているオーディオブランド。創始者ジョナサン・ワイスがAudio-Technicaの創業60周年記念カートリッジ「AT-MC2022」に感銘を受けたことから今回の協業が実現したという。
OMAのコンサートホール仕様スピーカー「Scottsdale」(日本初上陸)とAudio-Technicaのハイエンドカートリッジを組み合わせた世界最高峰のサウンドシステム。来場者は、空間演出された薄明かりの会場に敷かれた座布団に腰を下ろし、セレクターの選曲に身を委ねて音に向き合う贅沢なリスニング体験が提供された。
『Deep Listening』2日目のプログラムは、前述のレコードショップVDS設立者・関塚林太郎による「Synesthetic Listening / 共感覚としてのリスニング」から始まった。共感覚(シナスタジア)をテーマに、音が別の感覚と交わる瞬間を探るセッションである。

会場となった第二伝道会館「蓮華殿」では、お香がほのかに香るなかハリプラサド・チョウラシアや芸能山城組、アリス・コルトレーンなど、関塚のセレクトしたアンビエント〜スピリチュアルな楽曲が次々と流れ、暗がりで音に身を委ねることよってその意味が一層広がっていく感覚を共有した。関塚は、「東京ではなかなか体験できない、音に包まれるような時間をみんなと共有できるのがうれしい。音楽を通して自分と向き合うこの静かな時間が、明日を生きる力になる。そうした“音楽の中心にある時間”を大切にしてほしい」と呼びかけた。
続いてのプログラムは、シンガーソングライターの優河が自身のルーツとなる名曲をアナログレコードで紹介する企画、「シンガーソングライター目線で聴く、シンガーソングライター名盤」である。「人前でレコードに針を落とすのは初めて」と語る優河が、キャロル・キングやサンディ・デニー、レナード・コーエンなどの楽曲を、一曲ずつ丁寧にターンテーブルで再生していく。
曲が終わるたびに針を上げ、盤をしまい、次のレコードを取り出し溝から曲を探し、またそこに針を落とす。ストリーミング全盛の現在では、ひどく手間に映るそうした一連の所作が、不思議と心地よく贅沢な時間に思えてくる。
「歌を始めてから、人はみんな違う声を持っている、ということを意識するようになりました。それぞれの声には、その人の人生が重なっていて、時間とともに変化していく。そんな“声の変化”をとても美しいものだと感じています。私自身、回り道をしながら自分だけの声を育てていく過程を愛おしく思い、今はその声にさまざまな想いを込めながら歌っています」と、最後に話していたのが印象的だった。