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「狭い社会の中で、みんな息苦しさや生きづらさを感じてる」
ー馬の骨名義でアルバム2枚を作って、2013年のキリンジ脱退以降は「堀込泰行」名義での活動に変わるわけですが、それは自然な流れだった?
堀込:そうですね。やっぱり「キリンジがあっての馬の骨」という考え方だったので、名前も対になってるし、自分1人でってなったら、本名のほうがいいと思ってました。
ー今回、馬の骨名義の新曲を作ることによって、「馬の骨とは?」というのを改めて考えるきっかけにもなったかと思うのですが、“Let’s get crazy”はどのように作られたのでしょうか?
堀込:ベスト盤の1曲目を新曲にしようということで、ストックがいくつかあった中から、これがいいと思いました。やっぱり馬の骨らしい音にしたかったので、基本的にキーボードとベースとドラムと歌で成り立っていて、合間合間でギターが入ってくる、すごくシンプルな編成で、どの楽器も必要最低限のことしかやってない。それでもドラマティックになるっていう部分に関しては、僕としては馬の骨のファーストのイメージでした。ファーストの1曲目が洋楽のカバー(ロバート・レスター・フォルサムの“My Stove’s On Fire”)で、あれに代わるような曲というので、リラックスしたムードがあって、アレンジはできるだけシンプルさを心がけて、今の自分が馬の骨サウンドを作ってみたっていう感じです。
ーソロアルバムの1曲目が1970年代の隠れた名曲のカバーだったというのは、馬の骨らしい遊び心の表れだったと思いますが、その感覚をもう一度やってみたと。
堀込:そうですね。だから新曲“Let’s get crazy”も、収録したものは曲の最後がウィンドチャイムの音になってますけど、デモの段階ではふざけてドラの音にしてたんです(笑)。「こういうのは馬の骨でしかできなかったよね」と思ってたんですけど、でも曲を作っているうちに、もうちょっとロマンチックな方がいいなと思って、結局ウィンドチャイムにしました。
ートークボックスも印象的ですよね。
堀込:ソウルっぽい曲だから合うだろうと思ったし、キリンジの“YOU AND ME”とかでも使ってたので、ここでもう一回自分が昔よく使ってた、馴染みある楽器を持ってくると、ファンの人も喜ぶかなと思ったりして。シンプルさの中にも一個ユニークなサウンドが入ってた方が、曲のフックにもなるだろうし。
ー<小さな窓の小さな声に心が萎んでしまう>といった歌詞は、2005年には書けなかった、スマホやSNSが一般的になった2025年だからこそのものですよね。
堀込:そこは自然と、今を生きている人間として、みんな普通にやってるSNSで、ちょっとした言葉で気持ちが沈んだり、そういうことがよくあるのを想像して。でも最初からそういう歌を書こうと思ったわけじゃなくて、歌詞ができあがっていく中で、<Let’s get crazy 涙を忘れたいミッドナイト>がバチッとはまったので、そこから連想したり、いろんな要因があるんですよね。Aメロのメロディーを書いて、<The sun and the stars>が出てきたから、「まあ、宇宙か」みたいなところから……。
ー<膨らむ宇宙>と<小さな窓>が対比になっている。
堀込:そうですね。宇宙は膨らんでるけど、僕らはちっちゃい窓を眺めて、そこで一喜一憂している。顔を上げれば、外にもっと広い世界が広がってたりもするんだけど、狭い社会の中で、ちっちゃい窓のちっちゃい世界の中で、みんな息苦しさや生きづらさを感じてるよね、みたいなことを織り込みたいなと思ったんです。やっぱり2025年に出すので、今を生きている僕らの気分みたいなものを反映したい気持ちはありましたね。
