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TESTSET砂原良徳&白根賢一が語る。テクノもロックも、正解が曖昧だった90年代を経て

2025.10.24

TESTSET『ALL HAZE』

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人間か機械かという対立構造は、人間かAIかというものに静かに、だが加速度的に置き換わりつつある。

しかしテクノロジーの恩恵がいかに肥大化しようとも、私たちは未だに未来のすべてを見通す力を持ち合わせていないし、今後もおそらくそうなることはない。先行きの見えない状況がもたらす不安は、技術がどれだけ進歩しようが消えることはないと断言してよいだろうし、そうした時代だからこそむしろ、他人の意見や目線が気になったりするのが人間の性のようにも思う。だから逆説的に、その居心地の悪さや恐怖にどのように対峙するか、今、我々は問われているのかもしれない……

TESTSETの2ndアルバム『ALL HAZE』は、そうした時代特有の強烈な「不安」あるいは、抑圧を前提に作られたものであっても、その状況を打破する何らかの提案をすることはない。メッセージよりも、イメージが優先される感覚……不思議なことに、そうであるからこそ時代のムードと共振しているかもしれないと思う。しかし正直なところ、私の曖昧な書き方が示すように、本当のところはわからない。

以下の文章は、ライター / トラックメイカーの小鉄昇一郎によるTESTSETの砂原良徳、白根賢一へのインタビューである。

左から:白根賢一、砂原良徳
TESTSET『ALL HAZE』を聴く(各ストリーミングサービスはこちら

需要がなければバンドは続かない。TESTSETのシビアな現状認識

─アルバムとしては2年ぶりですね。

砂原:そうですね。ただ、2022年の結成から1stアルバムの間に4曲入りのEPも2枚出してますから、実質アルバム3枚分くらいは曲はある。かなりハイペースに曲は作っていると思います。この年齢のバンドにしては(笑)。

白根:ライブもかなりやってますしね。

砂原:本数でいえば、既にMETAFIVEより多いと思います。それはもっとTESTSETとしての認知度を上げたいからでもあるし、バンドとして肌感覚を鍛えていくためには場数を踏む必要があるからで。露出的にはMETAFIVEのほうが多かったかもしれませんが。

白根:とはいえ、戦略会議をするわけではないんです。とにかくライブと制作をこなすという、現場主義的な活動を進めていくうちに、だんだん「ああ、このバンドってこうなっていくのか」というのが見えてきたという感覚です。もちろん、砂原さんは常に俯瞰で見ているとは思いますが。

TESTSET(左から:砂原良徳、永井聖一、LEO今井、白根賢一)
『FUJI ROCK FESTIVAL ‘21』にMETAFIVEの特別編成として出演した砂原良徳とLEO今井が、GREAT3の白根賢一(Dr)と相対性理論の永井聖一(Gr)を迎え、グループ名を新たにTESTSET(テストセット)と冠してライブ活動を開始。2023年7月、1stアルバム『1STST』をリリース。2025年10月、2ndアルバム『ALL HAZE』をリリースした。

砂原:最初はお客さんも「僕(砂原)とLEOくん、あとの2人はサポート」というように見ていたかもしれないですけど、自分たちとしては、最初から4人がイーブンのバンドなんですよ。

METAFIVEの流れもあって、最初はステージでも僕とLEOくんがセンターでしたが、今はLEOくんと永井氏を中心に、サイドを僕らお年寄りが挟んでる(笑)。そうやって、バンドの形ははっきりと示せるようになってきました。

─バンドとしては、アルバムが完成して一休みではなく、認知度を広げるためにも、さらに積極的に活動していくモードですか。

砂原:まあ、それが許されるなら(笑)。やはり需要というのはシビアですから、それがないことにはやってもしょうがないんで。

1980年代に10代を過ごした砂原&白根は、AIをどう見ているか?

─今回のアルバムも、ビンテージなテクノサウンドが、熱すぎずクール過ぎず、絶妙な温度感で奏でられていて、TESTSETらしいアルバムだと思いました。4曲目“Enso”のイントロから左右で鳴っているシンセパーカッションなんか、まさにニューウェイヴ的な古きよき音像に感じました。

砂原:あれはDXとかそういうFMシンセに、リングモジュレーターをかけた音(※)で、古臭い音作りをやってます(笑)。まあ、そういう作り方が長年の方法論というか、意識せずできるやり方なので。パッドを叩いたりっていう今っぽい手法ではなくね。

※筆者注:FMシンセは複雑な倍音に特化したデジタル音源で、DXはその代表的な機種シリーズ(YAMAHA DX7など)。リングモジュレーターは音に金属的な響きをもたらすエフェクト

TESTSET『ALL HAZE』収録曲(各ストリーミングサービスはこちら

─シンセ主体の音作りしかり、インダストリアルなリズムしかり、TESTSETのベースには1980年代的なサウンドありますよね。一方で、現代的な音楽制作の現場に目を向けると、AIが浸透しつつあります。おふたりは実際に使われることはありますか?

砂原:僕はゼロですね。AIのマスタリングソフトなども触ってみましたが、個人的にはまだまだだと思います。

自分がマスタリングしたあとに、同じ音源をAIにマスタリングさせてみて比較する……というような実験も試してみましたけどね。ただ、AI自体はすごいスピードで発展しているし、何を学習させるかで結果も違うでしょうから、今の時点で一概には言えないですね。

砂原良徳

砂原:AIはまだ、確固たる価値判断ができないんだと思います。AIはどっちがいい、悪いというような判断力が足りてないし、その根拠がない。でも、こっち(人間)には、理屈じゃない「断然、これが好き!」というのが価値判断とその根拠があるわけじゃないですか? まあ、こういう状況も時間の問題かもしれませんが。

白根:自分も、制作でAIを使うことはありませんが……この前、仕事で関わった曲のドラムがすごくよかったんです。「一体誰が叩いたんだろう?」っていろいろ想像したんですけど、確認したらAIだと言われて。まあ、ただポンとAIが出力したものではなく、かなり細かいプロンプトを作成したり、込み入った作業を経て、人間らしい叩き方に寄せて作ったものらしいんですけど。

白根賢一

─今のAIが目覚ましく発展する状況は、ドラムマシンが登場したときに、「もうドラマーの仕事はなくなる」と言われた1980年代と、少し似ているのかなとも思うのですが。

白根:逆に、どう思われますか? これからどういう状況になるのか。

─個人的には、楽器を演奏する喜びというのは普遍だと思うので、プレイヤーの人口が完全にゼロになることはないと思います。ただ、音楽制作におけるAIの占める割合はどんどん増えるのではないかと。そうなると、演奏する人の人柄だったり、ストーリーのようなものが大事になるのかなあと個人的には思います。

砂原:僕は仕事中の気分転換で、わざと下手なバンドの演奏を打ち込みで再現する遊びをたまにやるんですよ。

ギターを降ろすときに、肩にかけたストラップが弦に腕が触れて「ビッ」とか鳴っちゃった場面を想像して打ち込むんです。「こういうヤツいるよなー」って(笑)。つまり、AIのような、模範的なクオリティーのものが溢れると、逆に下手な演奏が聴きたくなる……みたいなことはありそうですけどね。

白根:今は、はっきりと「正解」が求められる時代なのかなと感じますね。音楽や映画の感想にも「正解」があるかのようなムードというか。そういう中で、砂原さんが言うようなエラー的なものが重要になってくるかもしれないですね。

砂原:逆に、そういうエラー的な部分まで含めて、人間のやることをAIがマネできるようになったとき、人間がどうなるか気になりますよね。

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