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民俗学とスピリチュアルの曖昧な境界に分け入り、掴みつつある感覚
―笹久保さん自身、魔術的・呪術的なものにどうしても惹かれてしまうんですね。
笹久保:そうですね。ただ、みんなそういう霊力みたいなものに気づき始めてる気がするんですよ。例えば、バリバリのサックス奏者だったシャバカが最近のアルバム(2024年作『Perceive Its Beauty, Acknowledge Its Grace』)でいきなり尺八を演奏していたり、André 3000が『New Blue Sun』(2024年)でインディアンフルートを吹いていたり。
その現象って何なんだろうなと思っていて。僕はもともとそちら側だし、彼らが近づいてきてるような感じもしていて(笑)。彼らが目指しているスピリチュアルのこととか、僕も自分なりに探求してる知ってるから話してみたいんですよ。
さっきの話じゃないけど、彼らも「自我からの脱出」を目指しているような気がするんですよね。それは社会の変化を表しているのかもしれないけど。

―呪術的なもの・オカルト的なものって今人気ですよね。それはなぜだと思いますか。
笹久保:流行ってますよね。以前はそんなものはどうでもいいやと思ってたんですけど、精神を高めたいという意味では僕とそんなに変わらないかもしれない。いわゆる「スピ」なものに関心がある人たちは秩父の奥地の祭りには来ないですよね。僕はセミナーに100万円も払えないので、洞窟に行くだけであって。
―そんな時代に『Echo Botánico』のようなアルバムが出ることも必然性があるような気がするんですよね。今回の曲名には「メビウスの輪」という言葉がついているものがいくつかありますが、秩父の山の中に入ると、多くのものが循環していることに気づかされます。循環していないのは山肌を無断に削り取られた武甲山だけであって。
笹久保:そうそう、非自然的ですよね。人間の手が入ると循環しなくなるんです。循環を乱しているのは、人間のエゴですよ。

―自己表現から離れた音楽というのは、非自然的な人間のエゴから離れたものでもあるということなのでしょうか。
笹久保:それもありますね。でも、いきすぎると作品を作らなくなるような気もしているんですよ。今は年間3枚とかハイペースで作品を作ってますけど、本当に悟ってしまうと作らなくなっちゃうような気がして、それに対する恐怖心もちょっとあります。
今はまだ社会と繋がっていたいと思いますけど、たとえ録音物として作品を作らなくても、自分自身のなかでは山奥でギターを弾いているだけで完結しちゃうんですよね。
―山奥にこもってギターを弾いていれば、毎回新しい曲ができるわけで、それで満足しちゃう。
笹久保:そうなんです。そういう場所で弾いていると一番気持ちいいですし、そうなりかねない。今はまだ作品を作ったり、コンサートで演奏することへの欲求とモチベーションもあるので、それがあるうちは続けていきたいです。コンサートもお客さんとの「同期」だと思うんです。お客さんとのチャンネルとバイブスが同期する瞬間ってありますし。

笹久保:あと、たとえ東京で演奏するときも僕自身は秩父のいつもの場所と同期しています。アイデンティティーを持っているというのは、自分が同期する場所を持っているということでもあると思うんですね。東京にいようが、ロサンゼルスにいようが、僕はいつも秩父と同期している。民族音楽の音楽家はみんなそういう場所を持っていると思う。
―だからこそ、いろんな音楽家とも共演することができる。
笹久保:そうそう。同期できる場所がなくなってしまうと彷徨ってしまうと思うんですよ。そういう場所を持っているのが一番大事じゃないですか? それがなかったら表面的で、どこでもいいものになってしまう。
同期できる場所を持つということ、自分に芯を持つということ、意識を高めるということ……いろんな言い方ができると思いますけどね。僕はいつもの場所でギターを弾いているときは巨木と一体になっているし、川そのもの、あるいは武甲山そのものになっている。そうすることで自分のエゴを超えたいんです。

笹久保伸 『Echo Botánico』(LP)

2025年11月2日(日)一般発売
レーベル:Chichibu Label
定価:4,400円(税込)
Chichibu 021.
[SIDE-A]
1. Echo Botánico I
2. Echo Botánico II
3. Echo Botánico III
4. Echo Botánico IV
5. Echo Botánico V
[SIDE-B]
1. Echo Botánico VI
2. Echo Botánico VII
3. Echo Botánico VII
4. Echo Botánico IX
5. Echo Botánico X
『Echo Botánico Vol.44 New Album Release Live 2025』

2025年11月4日(火)
会場:東京都 晴れたら空に豆まいて
開場:18:30 / 開演19:30
料金 3,500円 / 4,000円(要ドリンクオーダー)
予約:03-5456-8880(晴れ豆)
『Newアルバム発売記念「新作レコード・リスニングパーティー」』
2025年11月8日(土)
会場:埼玉県 Esquina(秩父市熊木町15-2 KMGビル 2F)
選曲:原雅明、TETONE、メガネとネイビーと白、Chihiro
時間:17:00
料金:3000円(要ドリンクオーダー)
予約:esquina.kmg@gmail.com