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民俗学とスピリチュアルの間で。笹久保伸が語る、秩父の異界性、呪術的信仰からの影響

2025.11.4

#MUSIC

笹久保伸がジャンルの枠を超えて手を伸ばす、音楽の呪術的要素

―新作には日本語で「植物的響き」という意味を持つ『Echo Botánico』というタイトルが付いていますが、今回はどのような意識のもとで制作されたのでしょうか。

笹久保:ジョアナ・ケイロスと作った『Picture』(2023年2月)からの流れが続いているような感覚はあります。あのアルバムはさっき話に出た呪術的風習を体験したことがきっかけになっているんですよ。

獅子舞の歌や囃子、お経などいくつもの音がずれて聞こえてきたり、普段混ざり合わないものが重なる瞬間がすごくおもしろいなと思って。そこから僕の持っている感覚と彼女の持っているブラジルの感覚を重ねるというアイデアが生まれてきました。

ジョアナ・ケイロス & 笹久保伸『Picture』を聴く(Apple Musicはこちら

―『Picture』と『Echo Botánico』はコンセプト的な連続性がある、と。

笹久保:そうですね。あと、ギターのフレーズも連続してるんです。まったく同じではないんですけど、『Picture』で作ったフレーズに近いものを今回も弾いているし、『Energy Path』にも入っているんですよ。

モザンビークのパーカッション奏者であるマチュメ・ザンゴとやった『Kalamuka』(2025年4月)でもジョアナ・ケイロスとやっていたときと同じフレーズを使ってます。例えば、このフレーズです(とギターを奏でる)。

マチュメ・ザンゴ & 笹久保伸『Kalamuka』を聴く(Apple Musicはこちら

―今弾いていただいたのはナチュラルハーモニクス(※)のフレーズですよね。ここ最近の笹久保さんの作品にはメロディーよりも音の響きを重視しているように思えるのですが、今のフレーズにもそうした傾向を感じます。

笹久保:そこはあまり意識していないかもしれないですね。自然と同期していたら、こういうフレーズが出てきたんです。

ハーモニクスの音をミニマル的な発想で弾くと、どこか呪術的な雰囲気が出てくるような気もしていて。もしかしたら1970年代にテリー・ライリーあたりがもっと面白いことをやっていたかもしれないけど。

筆者註:通常のようにギターの弦を押さえるのではなく、軽く触れた状態で弦を弾くことで、倍音の原理を利用した高音を奏でることができる。

―今回のアルバムにはここ数年笹久保さんが取り組んできたさまざまな試みが一気に流れ込んでいる感じもするんですよ。『Picture』や『Energy Path』のミニマルな指向もあれば、今年4月に出たアンデス音楽集『Layqa Taki』のメロディー感覚を経由した跡も窺えます。

笹久保:確かにいくつかの流れをまとめたような感覚はありますよね。それを『Picture』や『Energy Path』のようなコラボレーションではなく、ひとりでやったということだと思います。まとめるとしたら、ひとりでやらないとは思っていました。誰かとやったらまとめにならなかっただろうし。

笹久保伸『Layqa Taki』を聴く(Apple Musicはこちら

―このタイミングで「まとめたい」という気持ちが浮かび上がってきたのはなぜだったのでしょうか。

笹久保:タイミングはあまり関係なくて、結果的にそうなったということかもしれない。コラボレーションはこれからもやりたいですしね。

僕は割と吸収タイプで、一緒にいる相手と同期できる。それは昔からそうなんです。2018年からmarucoporoporoさん(※)というアーティストと演奏や制作をして、何作か一緒に作ったのですが、彼女もどこか魔術的・呪術的なを世界観を持っていて、霊力みたいなものがある。彼女はすごくおもしろいですよね。共作して大きな影響を受けました。

筆者註:愛知県在住の音楽家。2018年には秩父の山村にある廃墟でフィールド録音した作品『Ruin』をリリース。2022年にはアルバム『GORGE』を共作している。笹久保伸『Chichibu』収録“Lilium (feat. marucoporoporo)”を聴く(YouTubeを開く

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