INDEX
ミックスルーツ当事者としての葛藤、苦悩を「ソウル」へと昇華する
─日本にとって、UKは昔から特別な国です。古くはThe Beatlesやモッズといったロックに始まり、ジャマイカ系の移民が持ち込んだベースミュージックのカルチャー、近年ではグライムのような音楽もあり、どれも日本に影響を与えています。今、注目すべきUKの新しい音楽はありますか?
ネクター:やっぱりサウスロンドンのジャズシーンは、すごくユニーク。Ezra CollectiveやKokorokoみたいな新しいグループがジャムセッションの中で、とても自由で、自分らしい表現をしているんです。
私の“Ama Said”という曲でも、Kokorokoのメンバーがトロンボーンを演奏しています。私にとっても身近なシーンだけど、これからもどんどん面白くなると思う。
─UKのジャズといえば、ジョーダン・ラカイはあなたの“Only Happen”に参加していますよね。彼とコラボレーションした理由は?
ネクター:もともと私は彼のファンで、彼もニュージーランドとオーストラリアのミックスルーツ。表現の仕方に、私と似ている部分や近しい感覚があると思います。
“Only Happen”は、ダークで深い部分のある曲なんです。ある人が、他人の目を気にして裏道を歩きながら、自分のアイデンティティーについて悩んでいる……イントロの重い雰囲気はそんなイメージ。どこか居心地が悪くて、「ここからどうなるの?」という展開にしています。
それがコーラスになるとフワッと明るくなって、気持ちが軽くなる。リリックの<Feeling the rhythm, heading for the light(リズムを感じて、光に導かれて)>という一節には、自分自身と本能を信じるという意味を込めています。
─EPの曲では、“When The Rain Stops”が個人的には好きです。日本では「恵みの雨」という言葉があるのですが、この曲における「雨」とはどういう意味で歌われていますか。
ネクター:雨に「Richness(恵み・豊かさ)」ってニュアンスもあるんですか? クールですね! UKで雨は、悲しみや憂鬱、あとは反省とか内省的な意味合いのほうが多いですね。
この曲の情景は、まず重くのしかかるような雨の中、自分の内面を見つめる人がいる。でも雨が止むと、草木の香りが漂ってきて、太陽が降り注いで希望の兆しが見えてきて……そういう感覚の歌です。
─素敵ですね。あなたの音楽からは、すごく温かいものを感じます。イライラしたり、悲しい気持ちも忘れて、踊りたくなるような気持ちにさせてくれる響きがあるように思います。
ネクター:ありがとう、私はいいことをしてるってことだ(笑)。最初にあなたが言っていたような、外は雨が降っていたけど歌を聴いてスッと気分がよくなったとか、そういうリアクションを聞くと、本当に嬉しいんです。
自分の音楽を聴いてリラックスしてほしいし、心地いい気分になってほしいと思っています。そのためには、オーディエンスのみなさんのことをもっと知りたいし、どんな音楽を求めているかを知りたいですね。
―その感覚はあなたの音楽からすごく伝わります。あなたの感じていることが、音を通じて心にまっすぐ届くような不思議な感覚があります。
ネクター:ありがとう、とても嬉しい! 私の目標はまさに、それを達成することだから。

ネクター・ウッド 『it’s like I never left|イッツ・ライク・アイ・ネヴァー・レフト』

2025年7月18日(金)リリース
1. Only Happen
2. LOSE
3. Ama Said
4. Light As A Feather
5. When The Rain Stops
6. Home Again
https://nectarwoodejp.lnk.to/ItsLikeINeverLeft