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捨てたものも残したものも、すべてひっくるめての今
―バンドメンバーは、前作に引き続き、鳥居真道(トリプルファイヤー)さん、浜公氣さん、Coffさん、沼澤成毅さんが参加していますが、どのようなやりとりをしながら本作を作り上げたのでしょうか?
mei:今回は、デモからほとんどアレンジが変わっていないんです。この作品に限らず、普段からデモが完成した時点である程度「これでいい」と納得していることが多くて、当初の構想から完成までそこまで変化することがない。セカンドアルバムでは、各メンバーの意見や持ち味が足されたり、みんなでアイデアを出し合ってデモから変化したものになったというケースもあるんですが、『All About McGuffin』に関してはそうではなく、ほとんどデモ通り弾いてもらったんです。なのでメンバーを多少退屈な気分にさせて申し訳なかったと思います。デモの状態から変化がなかったので、メンバーとしては「あまりにもスッキリし過ぎている」と不安に思ったみたいで、そう言われると私も変えるべきか迷う瞬間もあったんですが、結局できる限りデモを再現してもらう方向でいくことにしました。
でも、そういう状態に至るまでは色々と悩みもしました。「もっとポップにしなきゃダメかな」とか、「踊れるアレンジにするべきか」とか、そういうことが頭をよぎったりはしました。音楽的な知識がまだまだ乏しいので、自然と感覚で作ったものが不協和音になっていたり変なユニゾンになっていたり、妙な要素が入っていても、それが好きだし自分が良いと思えるアレンジなので、最終的には自分から出てきたものに疑問を持たずにそのまま出そうという地点まで持っていくことができました。
―今作ではリリックの書き方を変えて、聴く人が自分の経験と紐付けられそうな表現にも取り組んだと別のインタビューで仰っていましたが、その取り組みが本作を非常に間口の広いものにしていますね。なぜ今、そうした新たな試みにチャレンジしようと思ったのでしょうか?
mei:自分だけに分かる表現の歌詞を書くことに飽きてきたんですよね。これまでのやり方にこだわっていると、日常であまり使わない聞き慣れない表現とか言葉にどうしても傾倒しがちになって、それが、つまらなくなってしまった。
私、短歌が好きなんですが、短歌にはリズムがあって、文字数に制限があるので、情景を伝えたり、何気ない瞬間を表現することに技術とアイデアが必要になってきます。平易な言葉を使って、それが巧みに現れているような短歌の作品が好きです。例えば「午後4時に窓から光が差している」という一文を読んだ時、人それぞれに思い浮かべる情景が異なると思うんですが、平易な言葉でスッと理解できるからこそ、イメージの幅が広がる。聴く人によっては私が曲で表したいイメージからかけ離れたものを想像することもあるかもしれませんが、そこは自分がどこまで近づけられる表現、言葉選びをするかなので、そういうことに最近はチャレンジしていきたいんですよね。

mei:加えて、実体験だけじゃなく全くのフィクションを歌詞として書くということにも挑戦しています。今までは、実際に起きたことから着想して歌詞を書くことが多かったんですが、そうではなくて、自分の想像から生まれるテーマを作詞してみようと思いました。
でも、これらの試みは、自分の想いや言いたいことを聴く人に伝えたいという気持ちでは全くなくて、日常生活で使うような言葉を手掛かりに聴いた人が何かを感じて、曲の印象や背景を膨らませることができるんだったら、自分の音楽がもっと面白く聴こえるかなって思ったというところに起因しています。
―タイトルの由来は様々なインタビューでも語られていますが、最後に改めて伺っておきたく。「McGuffin(マクガフィン)」は、物語を進行するための重要な「何か」を表す概念で、有名なところでは、映画『パルプ・フィクション』のスーツケースなんかが挙げられることが多いですが、なぜmeiさんはこの作品に「マクガフィンのすべて」というタイトルをつけられたのでしょうか? 「All About(〜のすべて)」というのがポイントな気がするのですが。
mei:そうですね。「All About(〜のすべて)」という部分には、アルバムの制作過程や実生活で捨ててきたもの、吹っ切れた物事に対しての敬意のようなものも含まれているんです。自分が経験してきたすべての出来事を否定したくない。今、手元に何があって、何を無くしてしまったのを具体的に答えるには労力が必要で、正直はっきりとは分かりません。アルバムにあるものが正しいものだとも限らないし、全然違うものでももしかしたらよかったのかもしれないと思う部分もあります。きっとこれからの人生も何かを得たり、失ったりして同じことを繰り返していくんだろうなと思うんです。それもこれも全部ひっくるめて、このタイトルにしたんです。