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RPGの世界に迷い込むように、アルバム全体を物語として聴く楽しみ
―このアルバムを聴いた時に、RPGあるいはレトロゲームのパッケージのような印象のジャケットも影響してか、重厚な物語に身を浸したような感覚があったんですね。個人的には、カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』(早川書房)を想起したりもしたんですが。
mei:なるほど。今作はアルバム全体を一つの物語、あるいは一つのRPGゲームのようにしようと思っていました。RPGって、自分一人である世界に没入できるというところが魅力だと思うんです。1曲目から10曲目まで通して聴いたときに、物語としての流れを感じられるものにしたつもりです。

mei:ただ、アルバム制作進捗0の状態からそうすることを決めていたわけではなくて、制作の途中から方向性が固まりました。“ゲームオーバー”と“ピクチャー”と“まだ早い果物”は、当初からアルバムに入れようと思っていて、その他の曲をどうしようかと考えた時に、自分の成長とか変化が如実に現れている“まだ早い果物”が軸になると思ったんです。この曲を基軸としてアルバムの方向性が定まり、目的を持って制作できたと思います。
mei:そして“オープニングテーマ”が完成したことによって、さらに目的がはっきりしました。アルバムを一つの物語、RPGや映画、小説のようなものになぞらえようとした時に、導入が必要だと思ったんです。苦悩や試練が待っていそうな暗闇の中を「とりあえず先に進むしかない」という感覚と、始まりのワクワクする感覚を曲にしました。自分がここ数年間で得た、教訓や今の心情のようなものも盛り込まれていますが、物語として1曲目から入り込んでいけるような曲にしたかったんです。
―今のお話にも関連すると思うんですけど、もしかして「ゲーム」はこのアルバムの大きなモチーフの一つですか?
mei:先ほども話したように、RPGのような雰囲気を盛り込みたかったので、制作しながら色々なゲームを思い出しました。ゲーム音楽がすごく好きなんです。プレイしている時に流れていなければならないから、基本的にずっとループする構成じゃないですか。ゲーム音楽が好きだから、自分の曲でもループをやってしまいがちなんだと思います。日常的にも仕事をしながらゲーム実況動画や、ゲーム音楽を流しっぱなしにしていたりします。私は曲を作るときにMVのような映像を想像しながら作っていくんですが、“巨大なものが来る”は『ワンダと巨像』のような神秘的で恐ろしく、物悲しいイメージの映像がフィットしているなと思いながら作りました。なので映画風に編集されている4Kプレイ動画を観たりして、どんな音を曲に入れようか考えたりもしました。
―“巨大なものが来る”は、このアルバムの中でも特に印象的な曲の一つですね。
mei:“巨大なものが来る”は、ベースとなる曲がずいぶん前にできていて、『Sway』をリリースした後のライブでも数回演奏していたんです。ただ、しっくりこなくてずっと保留にしていて、今回アルバムの方向性が定まったタイミングで掘り起こしてきて、タイトルとAメロ以外を全て変えて仕上げました。
mei:この曲は、アルバムのクライマックスのようなものにしたかったんですが、『All About McGuffin』の物語のエンディングは何かを提示するものではなく、聴く人が「こういうこともあるよな」と共感できる余白を残すために、曖昧なものにしたかったというのもあって。何か強迫的で大きなものがやってきて、それに飲み込まれて、圧迫されるような感覚。その大きなものが、実際のものなのか、あるいは出来事なのかは分からない。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない雰囲気を、『ワンダと巨像』のゲームが持つ独特のムードを楽曲に取り入れることで出せるかな、と思ってやってみました。