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セリフに依存せず雰囲気を醸し出す、岡田将生の演技の説得力
―岡田さんは、どのようなことを悩んでらっしゃったんですか?
岡田:今回、4つのお話が繋がっていく作りになっていますが、その中でも最初の部分を任せていただいて。導入部分がずれてしまったら、映画としてもドラマとしても(※1)うまくいかないと思ったんです。そして何より小村という役に理解できない部分や謎も多いので、みなさんと小村のイメージをすり合わせたいなと思っていました。
そんな中で、撮影に入る前に本読み(※2)ができたのは、すごく楽しかったです。いろいろ試せたことで、安心して現場に入れた感覚がありました。
※1 本作は、2025年4月に放送されたドラマ『地震のあとで』(NHK)と物語を共有しつつ、映画に再構築したもの。
※2 作者 / 演出家が役者を集め、脚本を読み聞かせたり、俳優が脚本を読み合うこと。岡田将生が出演している村上春樹原作の映画『ドライブ・マイ・カー』でも、本読みのシーンがあった。
井上:これは正解のない物語なんですよね。小村というのは、からっぽの象徴のように描かれているけれど、当人に直接そう言ってるセリフってないわけです。セリフがないけど、そういう空気を出さないといけないから難しいんですよね。
特に第1章は小説っぽいセリフが多くて、日常とは違う感覚を醸し出さないといけないので、これからどこに運ばれるんだろうという感じがあります。だって、いきなり小村は箱を渡されて、それを持って北海道に行かないといけないんです。それって突拍子もないことだけれど、岡田さんが演じると、本当に行ってしまいそうな雰囲気があるじゃないですか。
岡田:流されるだけ流されましたね(笑)。
井上:でも、世の中には実際にそうやって流されちゃう人もいると思うんですよ。自分自身も試しながら、心の旅をしたいという人。

1968年生まれ、熊本県出身。1993年NHK入局。ドラマ番組部や福岡放送局、大阪放送局勤務を通して、様々なジャンルのテレビ番組制作に関わる。主にドラマやドキュメンタリーの演出 / 監督 / 脚本 / 構成を手がける。代表作は、数々の話題を生んだ連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』、土曜ドラマ『ハゲタカ』、『64(ロクヨン)』、『トットてれび』、『不要不急の銀河』、『拾われた男』など。『その街のこども』、『LIVE!LOVE!SING!~生きて愛して歌うこと~』はドラマとドキュメンタリーが融合した演出が注目を集め、ドラマ / 映画共に高い評価を得た。2023年7月にNHKを退局し株式会社GO-NOW.を設立。フリーの監督 / 演出家として活動している。
岡田:その感覚は、自分自身の中にもありました。助かったのはロケ地の空気感も生きていたことです。あの箱を渡される、小村が働いているレコード屋とかもすごくよかったんですよね。
井上:あれが異界に入るスイッチになっていたと思いますね。陽気な商店街にあるレコード屋だとそうはならなかったかもしれないと思います。各章に、異界に入るスイッチのようなものがあるんですよ。
岡田:オーディオの箱の中もちょっとUFOみたいに見えたりしました。
井上:今作は全部「箱」にこだわっていて。オープニングの東京の街も箱だし、途中で登場するステレオも、冷蔵庫も箱だし。
―脚本の段階で、「箱」というものがちりばめられていたんですか?
井上:そういう部分もあったけれど、その場所に行ってから、撮っている中で見えてくることもありました。
岡田:僕も自然とその箱に入るように歩かされてる感じがありました。釧路空港で小村は謎の女性2人に会うんです。その2人と立ち話をするところも箱になっているんですけど、どこか閉じ込められている感覚を常に感じていたんです。空港を出たらすぐに車にも乗りますし、息苦しさをずっと感じていたので、そういうシチュエーションが、演じる上での助けになっていました。

小村は勤め先のオーディオ専門店で同僚にある「箱」を釧路まで運んでほしいと頼まれ、言われるがままに「箱」を持って釧路に行く。
井上:地面に足をつけているようなお芝居があまりないんですよ。「閉じ込められる」「運ばれる」ということを常に意識していましたね。