『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下『フジロック』)の「ROOKIE A GO-GO」といえば、新人アーティストの登竜門として多くの音楽好きの注目を集めるオーディションだ。
そんな「ROOKIE A GO-GO」に2025年選ばれた16組のアーティストから、Glans、yubiori、さらば帝国の3組が出演する『ROOKIE A GO-GO Extra Show』が東京・SHIBUYA CLUB QUATTROで10月31日(金)に開催される。開催を前に、今年の『フジロック』盛況の様子、「ROOKIE A GO-GO」ステージを振り返っておきたい。
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コロナ禍以降、『フジロック』は最大の活況を見せて終了
開催28回目を迎えた『フジロック』は、7月24日(木)の前夜祭から延べ4日間、122,000人が来場した。土曜1日券、3日通し券は売り切れとなるなど、コロナ禍以降、一番の反響があった年と言えるだろう。
さらに「FIELD OF HEAVEN」の最奥のエリア、「ORANGE CAFÉ」に新たなステージ「ORANGE ECHO」が登場。日本やアジアをテーマにしたラインナップで、『フジロック』の新たな見どころと期待されていたが、実際そうなっていただろう。

国内外200組を超えるアーティストによるライブの他にも、森の中で自由に遊べるキッズ・ランドや、誰でも参加ができ、アーティストもサプライズ登場する「森のピアノ」、サーカスや大道芸など、多種多様なアクティビティやワークショップは、性別や世代、国籍に関係なくたくさんの人が驚き、感動する空間だった。


また、昨年に続き、今年もAmazonにて苗場の模様を全世界に向けて無料でライブ配信が行われていた。現地に向かうことが難しい多くの人にとっても、開かれた時間となっていたのではないだろうか。
4日間のべ来場者数 122,000人
7月24日(木) 16,000人(前夜祭)
7月25日(金) 33,000人
7月26日(土) 39,000人
7月27日(日) 34,000人
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チケット不要でニューカマーを見ることができるステージ「ROOKIE A GO-GO」
『フジロック』は現地へのアクセスや野外という環境、チケット代や宿代などである程度まとまった金額が必要というハードルも事実としてありつつ、無料生配信の他にも、実は無料で楽しめる方法がある。
苗場プリンスホテルの近く、入場ゲート手前にある「THE PALACE OF WONDER」は、チケットがなくても楽しめるエリアだ。飲食テントがずらっと並び、サーカスや「CRYSTAL PALACE TENT」など、見どころもたくさんある。そして新人アーティストの登竜門となっている、「ROOKIE A GO-GO supported by Levi’s®」(以下、「ROOKIE A GO-GO」)、通称「ルーキー」もこのエリアにある。

「ROOKIE A GO-GO」は、1999年に前身となる「Levi’s NEW STAGE」としてスタートした歴史あるステージだ。Levi’sの協賛により、これから活躍していくアーティストに開かれたオーディションとして運営されている。
過去にはKing Gnu、Suchmos、My Hair is Bad、Creepy Nuts、羊文学、くるり、サンボマスターなどが出演し、星野源も「SAKEROCK」として出演したこともある。新人の登竜門ということが、名ばかりではないことが分かるだろう。

そんなステージに出演できるオーディションは、日本最大級のディストリビューションサービス・Tunecore Japanの応募フォームから申し込みができる。今年も国内外から約3,500組の応募が集まり、16組のアーティストが決定した。応募条件には「年齢、国籍、性別、演奏スタイル、個人・グループ、ジャンル等は問いません」と記載があり、無料で応募できる、多くの人に開かれたオーディションだ。決定したアーティストの音源は、こちらから試聴できる。
「ROOKIE A GO GO」に2025年選出された16組
7月25日(金)Trooper Salute / 雪国 / ゆうさり (合奏) / HUGEN / yubiori
7月26日(土)震樂堂 (From ROCK IN TAICHUNG) / MURABANKU。 / 梅井美咲 / DOGO / 加藤伎乃 / EMNW
7月27日(日)ハシリコミーズ / さらば帝国 / テレビ大陸音頭 / Glans / 自爆
MC:魔将軍チャッキー (JADE FOREST COMPANY)
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「ROOKIE A GO-GO」企画「FRF’26出演権獲得!目指すはメインステージ!」の存在
このオーディションが「新人の登竜門」と言われる理由はもちろん、『フジロック』という信頼のおけるフェスに出たという事実がその後の注目度に影響してくるからということもあるが、一つ大きな理由として、選ばれた「ROOKIE A GO-GO」の枠から選ばれた1組は、翌年メインステージへの出演が約束されることもあるだろう。
投票により、今年はkurayamisakaが初日の「RED MARQUEE」トッパーを務めることになった。しかし投票枠のみならず、HOMEは通常ブッキングでORANGE STAGE、眞名子新はGypsy Avalonに出演が決まった。「ROOKIE A GO-GO」は、1年後には活躍のステージを大きくしているアーティストが集まっているということの証明だろう。その跳躍を目の当たりにして、『フジロック』に遊びに行った後で「来年は応募しよう」と心に決めたアーティストも多いのではないだろうか。
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台湾の無料フェス『ROCK IN TAICHUNG』とのコラボレーション
さらに今年は台湾のフェス『ROCK IN TAICHUNG』とのコラボレーションによって、同フェスより震樂堂(シンガクドウ)の出演が決定した。2日目の「ROOKIE A GO-GO」ステージの一番手であり、台湾の民間信仰を創作の礎としていながら、音楽性としてはハードロックの潮流を現代にアップデートしたバンドだ。国内外から多くのアーティストが集まるフェスティバルということもあり、新人の登竜門である「ROOKIE A GO-GO」ステージに海外のアーティストが参加するようになったのは面白い。
今年は韓国からNight TempoやBalming Tiger、Kim Oki、SILICA GEL、HYUKOHが、台湾からSunset Rollercoasterが、タイからYONLAPAが出演するなどアジアのアーティストも多くラインナップされており、「ROOKIE A GO-GO」に出演した海外アーティストが、今後大きなステージへとステップアップしていく可能性も十分あるだろう。
ちなみに『ROCK IN TAICHUNG』と『フジロック』は互いにアーティストをブッキングしており、2025年10月に開催される『ROCK IN TAICHUNG』へは昨年の「ROOKIE A GO-GO」からANORAK!、HOME、SATOH、眞名子新が出演する。
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帰り道の人々を捉えて離さなかったアーティスト
「ROOKIE A GO-GO」のステージは、『フジロック』のゲートから、帰り道の途中にある。そのため音が聞こえて、名残惜しさもありつい立ち止まってしまう人が絶えないエリアだ。ということは、まだ知名度が高くなくとも、ライブに自信があるアーティストにとってはまたとないチャンスだろう。
実際に筆者がステージを見ている中で、帰路についたはずの多くの人が「ROOKIE A GO-GO」のステージに吸い込まれていった。たとえば2日目に出演したバンド・さらば帝国は、実直なギターと歌で、音楽の好みとは関係なく通りすがりの人に「今見ないといけないかも!」と思わせる説得力があった。
さらに加藤伎乃(かとうきの)のギターと歌は、大雨に降られた後、深夜2時の身体に染み渡った。気になってInstagramをチェックしたところ、愛知県瀬戸市出身、10年以上のキャリアの持ち主で、パリでもワンマンライブを行っている。そしてエレクトロユニット「Apo:ism」としても活動しているようだ。もっとこのアーティストのことを知りたい! と思わせてくれた上に、いろんな人に「『フジロック』で出会えて良かったアーティスト」として伝えたくなる魅力があった。筆者以外にも、そう思わされた人も多いのではないだろうか。
3日目に大トリを務めたバンド・自爆は、リハーサルでTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの“ミッドナイト・クラクション・ベイビー”を披露して横の飲食テントに並ぶ多くの人から注目を集めていた。最後の出番ということもあり、自身のパフォーマンスを終えた演者も客席にいて、最後の体力の結実による熱量の高いフロアが出来上がっていた。
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ライブが希少なアーティストも『フジロック』だから出たい、と思わせるフェスの魅力
「ROOKIE A GO-GO」の出演者には、『フジロック』の3日通し券がプレゼントされる。選ばれたアーティストは『フジロック』を堪能できるのも魅力の内だろう。
J-WAVEの番組『GRAND MARQUEE』でも、「ROOKIE A GO-GO」出演アーティストのMURABANKU。が『フジロック』をどのように楽しむのか、密着インタビューが敢行されていた。青葉市子から雪国まで、『フジロック』ならではの「出演者も遊び倒している」様子が垣間見えて楽しい。
なお、6人組インストバンドのMURABANKU。はゲストにテルミン、ヴィオラ、パーカッションも迎えたスペシャル編成で集合。この日への気合が感じられるステージだった。冒頭の“青梅街道”から観客に「なんだこれは!」と思わせるキテレツさと、パワフルな演奏で最後まで駆け抜ける様は唯一無二だった。何者か気になった人に向けて、自身による自己紹介動画も用意されていておもてなし精神を感じる。
さらにピアニストの梅井美咲が出演するということで、駆けつけた人も多かった。梅井は2025年3月開催のNiEW presents 『exPoP!!!!! vol.171』に出演したときに初披露した、ドラム・海老原颯(ex.シャッポ)との2人編成で登場。『exPoP!!!!!』でもかなりの余韻を多くの人に残していた印象があり、今回も期待値が高かった。
気鋭ジャズピアニストとして既に名の知れている梅井だが、近年は菅野咲花とのユニット「haruyoi」、北村蕗とのユニット「°pbdb」での活動など次世代を担う音楽家としてシームレスな活動が注目を集めており、一目見たいという人が多かったのだろうか、大勢が詰めかけていた。そして終演後の観客の表情を見て、歩みを止めた人の期待を裏切らなかった、いや寧ろ良い意味で裏切ったのだろうということを感じさせられた。

