INDEX
NPOに育まれてきた文化施設。ロンドン、パリ、札幌の事例から見る音楽教育
2組目に登壇したのは、音楽評論家の柳樂光隆。東京学芸大学の教育学部出身で、もともと教員志望だったという柳樂は、執筆業の傍ら、音楽教育のリサーチをライフワークにしている。その中で知り得た事例を挙げ、海外の音楽業界のエコシステムと教育がどう関わっているのか紹介した。

1979年島根県出雲市生まれ。音楽評論家であり、『Jazz The New Chapter』の著者。珍屋レコード、ディスクユニオン勤務を経て、2000年代末より音楽評論家、DJ・選曲家、昭和音楽大学非常勤講師として活動。ジャズを軸にしながらも、ジャンルを越えた視点で幅広い音楽テキストを中心に執筆活動を続けている。
事例の一つとして、ロンドンを拠点とするNPO「トゥモローズ・ウォリアーズ」を紹介。ミュージシャンで教育者のギャリー・クロスビーと、そのパートナーで慈善活動家のジャニー・アイロンズによって設立され、音楽活動を志す子どもたちを支援してきたNPOだ。2017年頃から世界的に注目されるようになったイギリスのジャズシーンを牽引するバンド、EZRA COLLECTIVEを輩出したことで知られている。また、同NPOで行われるレッスンは、ロンドンの公共施設「サウス・バンク・センター」が支援していることも特徴だ。柳樂はこうした状況について、「現在のロンドンにおける活気あるシーンは、音楽教育を行うNPOによって育まれてきたと言っても過言ではない」と評価した。
さらに、ロンドンのスタジオ「トータル・リフレッシュメント・センター」も紹介された。2012年にUKジャズの重要人物レックス・ブロンデルが設立。チョコレート工場だった建物を改装し、音楽スタジオやライブスペースなどを設け、ミュージシャンに安価で提供している。ミュージシャンだけでなく、エンジニアやクリエイターなどが集まるハブとしての役割を持ち、イギリスのジャズシーンを盛り上げる中心的存在だ。柳樂は同スタジオについて、「音楽教育だけでなく、音楽に携わる人々が交流できる環境を創出した点で、シーンの活況に大きく貢献した」と語った。
一方、日本の成功例として紹介されたのが、札幌市の公共施設「札幌芸術の森」を拠点とするビッグバンド「札幌ジュニアジャズスクール」だ。星野源や米津玄師などの楽曲にも参加するトップドラマー石若駿や、アニメ版『BLUE GIANT』の演奏を担当したサックス奏者の馬場智章ほか、多くのミュージシャンを日本の音楽シーンに送り出している。これらの事例について柳樂は、「海外の事例のような活動は日本では難しいと思われがちですが、同スクールの存在は、日本の公共施設やNPOが果たす音楽教育への役割を考える上で参考になる事例ではないでしょうか」と語った。
