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イ・ヒムンインタビュー 世界に注目された民謡歌手に根ざす、革新と伝統

2023.5.11

#MUSIC

今の時代になぜ自分が伝統音楽をやり続けているのか、という答えを探すために

ー鍛錬の日々を経てプロになったと思いますが、女性がメインの民謡界での苦労もたくさんあったと思います。

ヒムン:民謡のベースになっているのが女性の声なので、男性の声では音程にたどり着くことで精一杯。自分の歌唱テクニックを自由に使うこともできないんです。女性歌手だけの公演に混ざって歌うのもすごく大変で、だったらひとりでやってみよう、と。自分の音程で歌いたいと思ってからは、年に一度単独公演をすることにしたんです。

ーその時の公演では、今のような多ジャンルの音楽を掛け合わせたスタイルではなく、伝統的な民謡の曲を歌っていたのですか?

ヒムン:そう。でも少しずつ新しくしたいっていう気持ちがあって。伝統衣装も自分でアレンジしたり、パフォーマンスでは韓国舞踊のアーティストにディレクションしてもらって、韓国舞踊のチームと一緒に踊ったり。舞台は、歌だけではなく総合的な芸術にしたほうが楽しいと思っていたから。

特に民謡は、昔の単語がたくさん出てきて歌だけでは理解できない部分も多いから、内容を伝えるためにも別な表現法を加えて。この舞踏のチームと出会ってから曲のアレンジや演奏も現代的に少しずつ変化させて、伝統音楽を新たにしていきました。専門ではない人が見ると「変わらないじゃん」と思われていたみたいだけど、自分の中ではすごく大きな変化だったんですよね。

ーそうやってヒムンさんの今の表現のベースが築かれていったのですね。

ヒムン:あと、現代舞踊のアン・ウンミ先生(Ahn Eun-Me / 安恩美)との出会いは大きかったです。先生の舞台のオーディションに受かって、2006年から先生の現代舞踊作品に参加することになり、年に一度、10年間ヨーロッパをツアーで周りました。その公演で音楽を担当していたのが、後にSsingSsing(シンシン)で一緒に活動するチャン・ヨンギュ(Jang Young-gyu / 張領圭)という音楽家。このあたりから、自分の音楽活動の基盤ができてきて、個人の作品制作や、その後2015年からSsingSsingの活動も始まっていったんです。

ーSsingSsingでは、YouTube番組として有名なNPRの「Tiny Desk Concert」にアジアの歌手として初出演して、世界的に注目されました。伝統文化や民謡をベースにしながら、表現を進化させていくモチベーションは、ヒムンさんの中にどう根ざしているものなのでしょうか。

NPR「Tiny Desk Concert」

ヒムン:民謡を歌いたい、多くの人に聴いてほしいという気持ちが大きいんです。自分自身も活動しながら、心のどこかで「このままではつならない」って思っていたし、どうしたら多くの人に公演を観に来てもらえるのかと方法を探していたんじゃないかな。その一方で、こうして現代の音楽のアレンジを加えたり表現の幅が増えてくると、昔から歌い継がれている曲を一切変えずに歌うことも素晴らしいと感じたし、それが本物の民謡なんだとも思っています。

ーそう感じるきっかけがあったのでしょうか。

ヒムン:SsingSsingの活動をしながらも、今の時代になぜ自分が伝統音楽をやり続けているのか、という答えを探すために民謡を歌う作品も作り続けていたから。対極にある表現を両立していたから気づけたんじゃないかな。

その後、美術作家と一緒に『キップンサラン』(‘Deep舍廊Love’ Series)という3部作を制作しました。改めて自分が歌っている民謡のルーツを研究しながら作った作品です。3部作それぞれ描く時代を分けて作ったのですが、民謡歌手であるお母さんをモチーフにした歌もいれました。お母さんが民謡を始めてどんな人生を送ってきたのか。お母さんの話をすれば、民謡歌手の女性の歴史がみえてくるんじゃないかと思って。当然かもしれないけど、他の人の話は簡単に話せませんよね。でも、自分の話は自信をもって話せる。自分の話は、自分が一番良く分かっている、という自信ね。

2016年にソウルで行われた、『キップンサラン』公演の様子。

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