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セルフタイトル『cero』でもいいんじゃないかって。
―『e o』というタイトルの由来を教えてください。
高城:すごく悩みました。最後まで青写真的なものがなかったから、タイトルのアイデアもなにもなくて(笑)。ツアータイトルの『TREK』とかもタイトル候補にあったんですけど、その手のイメージの受け皿になってしまうタイトルは、先ほどの話でいう叙事的なアングルを強化しすぎてしまうのでやめました。
「これがceroです」っていうアルバムだと思ったから、セルフタイトルの『cero』でもいいんじゃないかって話もあって、でもそれだとあまりにもひねりがないから、制作の過程でさんざんやってきたような遊びの感覚を取り入れて、「c」と「r」を消去した「e o」になりました。「e o」と聞くと、ある世代の人は『キャプテンEO』が頭に浮かぶかと思うんですが、あの『EO』は一説によると「夜明け」を意味するとか……。
―ぼくも事前に調べたら、ギリシャ神話に由来する言葉みたいですね。
高城:そうそう。そういうのが出てきたから、意味としてもすごくいいし、ビジュアル的にもデザインしやすそうだなって。だから、ほぼセルフタイトルみたいなものなんですよ。

―ファーストアルバムと同じように3人で集まってつくって、「やっぱりこれがceroだな」と再認識した?
高城:ホントに『WORLD RECORD』とよく似た制作期間でした。もちろん、状況はいろいろ変わってて、コロナもそうだし、子供もいるし……犬がいたり猫がいたり(笑)。

―サンプリング的にいろんな音が入っている感じもファーストに近い印象です。ちなみに、今回ゲーム音楽的な音色が多いなと思って、それはハイパーポップ的とも言えると思うし、あとアートワークも8bitっぽいなと思ったのですが、なにかイメージはありましたか?
高城:たしかにね、最初の曲に<ひどく粗いゲームの画面>っていう歌詞も出てくるし……でもそれも「言われてみれば」なんですよ。今回は人に言われて感心することばかりで、ぼくら自身が発見する側なんです(笑)。でもまぁ、8bitみたいという印象を無理やり引き継いで話すとすれば、ビット絵みたいに、ミクロな部品がマクロを形成するみたいな構造は、内容に関しても言えることかもしれません。
―ミクロとマクロ?
高城:音楽の構造でいうと、多くの楽曲にゆったりリズムを刻むセクションと細かく刻むセクションとが歪に内在しています。細かいフィールのリズムをミクロと捉えるならば、その世界には忙しくスピード感あふれる時間が流れている。かたや、マクロなフィールのリズムにはゆったりとした時間感覚がある。そういうミクロとマクロが織り成すフラクタル的な構造がぼんやり共有されていて、言葉もその構造に少なからず影響を受けたと思うんですね。
―具体的には、どういった部分でしょうか?
高城:この世界では、同じ構造のように見えて、マクロな世界とミクロな世界では違ったルールで運行してたりする。そういう構造ってシンプルだけど面白いなと思って、それを観察するような制作が多かった気がします。歴史も同じように動いてるというか、国家レベルのマクロな動きが歴史を決定するけど、ミクロな世界ではもっといろんなことがあって、でも時が経つとマクロな出来事の経緯だけが採用されて、ミクロな出来事は捨象されていくわけじゃないですか? でもそれらは失われたわけじゃなくて、小さい新聞の記事であれ、その痕跡を誰かが観察すれば存在し続けられる。
細かい話は差し控えますが、量子力学にも通じるところがあるとぼくは勝手に解釈していて、そのへんの興味みたいなものも、個人的には内容に盛り込みたかったという、だいぶ無理やりな話なんですが……。

高城:でも「これがこうでこうなんです」って一から十まで説明するのもどうかと思うし、音楽であればあくまでぼんやりしたまま存在できるというか、音楽なら唯一そういうものをボンヤリさせたままパッケージできるなって……っていうのも全部後付けなんですけどね(笑)。できてきたものを改めて聴いて、そう批評することもできるなって、自分で鑑賞してそう思ってるんです。
―100年も経てばこの3年間も「コロナ禍」の一言にまとめられてしまうのかもしれないけど、そのなかにはもっとミクロな、さまざまな動きがあって、音楽であればその痕跡をちゃんと残しておけて、振り返ることもできるし、そこから未来を見据えることもできますよね。
高城:そうですね。さっき言ったビット絵っていうのもミクロとマクロの構造ですけど、今回のアートワークは実際には織物で。でも構造は同じというか、ミクロの一点を取ったらただの色でしかないけど、マクロで見るとああいうひとつの絵になる。そういう構造がこのアルバムの特徴なんじゃないかと思います。
