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過去2作が融合した新たな境地
『HIT ME HARD AND SOFT』(強く優しく叩いて)という危うい魅力を放つタイトルを冠した3rdアルバムで、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)は再び新境地に進む。
当時17歳だった2019年にリリースしたデビューアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は、ティーンの繊細さと不安定さを、ゴシックとヒップホップを織り交ぜた悪夢的な世界観で描き切り、爆発的なヒットを記録した。”you should see me in a crown”のMVで口から這い出てくるクモや、”when the party’s over”のMVで流す黒い涙といった不気味なユーモアと美学が、多くの人に新時代の到来を感じさせた。
1作目で一気にスターダムをのし上がった彼女が、2021年にリリースした2作目『Happier Than Ever』は、多くの人にとって予想外の作品だっただろう。過去の失恋やトキシックな男性像、身体といったテーマを掘り下げ、名声への期待をボサノバ風に反芻することで、オーディエンスに新しい驚きをもたらした。
それらに次ぐ今作は、その両者が溶け合った、彼女の芸術的限界を新たな領域に押し広げる野心的なアルバムだ。1作目で私たちを圧倒的な世界観へ引きずり込んだように、もう一度私たちを突き落とす。しかし、そこはクモが巣食う悪夢ではなく、水中のように不安と安心が共存する世界だ。
