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夏目が聴いた柴田の『Your Favorite Things』。「『柴田聡子』という存在を完全に乗りこなしている」
―夏目さんは、柴田さんの新作『Your Favorite Things』を聴いて、いかがでしたか?
夏目:めっちゃ面白かったです。日を分けて3回聴いたんですけど、毎回面白かった。最初に聴いた時、「あ、これはもう柴田さんは『柴田聡子』という存在を完全に乗りこなしているな」と思いました。すごく楽しそう。
柴田:嬉しい……確かにそういう感覚はあるかも。今回サウンドプロデュースで岡田(拓郎)さんに入ってもらってガッツリ組んで制作したのが大きい気がします。こんなに楽しんで作ったのは初めてかもしれない。
夏目:すごく自由さを感じる。
柴田:「こういう音楽は私に似合わないだろうからやめておこう」みたいなのを取り払って作ったんです。例えば、TWICEが好きな自分と自分の音楽をわけて考えることをしなくなったんですよ。
夏目:フックはたくさんあるんだけど、日本のポップソングで言うところの「サビ」みたいな考え方からも自由になっているし、「歌」というより「フロウ」といった方がいい部分もたくさんあって。
全体的に、リズムとフロウがよく絡み合っていて、アルバム一枚通じて絵巻物っぽい、絵画的なイメージ。歌詞も、目で読まずにあくまで耳で聴くのが楽しい感じ。フラッシュ的に絵が浮かんでくるような。

柴田:今回、初めてボーカルを自分で録ることにしたんですけど、それが大きいと思います。リズムの面でも、声の出し方の面でも、前作まではどうしても言葉が浮いてしまっている気がしていたんです。それをどうやったら解消できるんだろうと考えていて。今回は、言葉を「音」にしたいと強く思いながら録音に臨みました。だからその感想はとても嬉しいですね。
―発声法もかなり変化しているように聴こえました。
柴田:ここ数年、そもそも自分の声が小さいっていうことを忘れていたんです。特にバンドと一緒にやるようになって以来、とにかく声を張らなきゃ、腹から出さなきゃって思っていて。性格もそれにあわせてやたら外向的な感じになっていったり(笑)。
でも、前作くらいから、ひょっとすると無理に声を張ってたのかも……と思うようになったんです。もともと性格もポジティブな方ではないですし(笑)。
―夏目さんもある時期からだいぶ発声法が変わりましたよね。
夏目:遡ると、シャムキャッツの『TAKE CARE』(2015年)っていうミニアルバムから発声について自覚的に考えるようになって、もっと丁寧に歌おうと思ったのが大きかったと思います。で、ソロ(Summer Eye)を始めたのをきっかけに、改めて「もう張らないでいこう」と決めました。
いい歳になってきたし、無理してドカーンって歌うのはもうやめようかな、って。そういうこと考えていた時、ちょうどボサノバとかブラジルの音楽をよく聴いていたんですけど、みんなポソポソと歌っているのにあんなに素晴らしいから、自分もこういうのがいいよな〜と思うようになったんです。
あと、一生続けられる音楽をやりたいなって思ったのもデカかったですね。自分を律してトレーニングを重ねながら頑張って声を張っていくっていうのも、ちょっとしんどいよなと思うようになって。
柴田:自分の場合を振り返っても思うけど、そういう発声法の変化って、突然ガラッと変わるっていうより結構シームレスなものですよね。私も普段の生活の中で考えることによって徐々に変わってきたなっていう感覚があるかも。
夏目:そうだね。