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新作のテーマ「ジュブナイル」に繋がるドイツへの移住で気づいたこと。「人間は個人的な喜びや発見でしかドライブできない」(三船)

ーこの写真集と新作『8』のテーマである「ジュブナイル」。「少年期」を意味し、一般的には子どもたちが冒険を繰り広げる小説・映画のジャンルを指す言葉ですが、三船さんはなぜ今回の作品にこのテーマを選んだのでしょうか。
三船:いろいろなタイミングが重なって、今回ジュブナイルをテーマにした作品をつくることになったけど、実はぼんやりとした構想は10年以上前から持っていました。世界がコロナや戦争で大騒ぎでも、瓦礫の中で楽しく遊ぶ子どもたちの姿を目にして、彼らにとっては世界のことよりも彼らなりの冒険を通して新しい発見があった、友だちができたっていう喜びが大きいんじゃないかなって。結局「世界のために」ではなくて、そういう個人的な喜びや発見の中でしか人間はドライブできないんじゃないかって思ったんです。
それは今年ドイツに引っ越してみて実感として得られたことでもありました。ベルリンで始まった新しい生活には、これまでの当たり前が通用しないルールや価値観、見たことのないきれいな景色、新しい友人たち……あげたらキリがないけど、個人的な発見や喜びが詰まっていたんです。最近の3作はずっと世の中のことを考えてつくっていたこともあって、今回あえて「世の中なんて知ったこっちゃねえ」というテーマで作品をつくってみたらおもしろいんじゃないかって思ったんです。「ジュブナイル」は、そんな考えをひと言で表した言葉です。

ー1曲目“Kids and Lost”の歌詞や写真集の巻末にある言葉を見ると、社会に合わせることをよしとする日本への違和感のようなものもテーマに含まれているように感じました。
三船:ジュブナイルって根本的に、まだ大きな社会に属しきれていない子どもたちが社会に帰属していく過程の話なんです。言うなれば子ども時代の終焉。彼らは大人や社会に反発しないといけなかったり、逆に大人と手を組んでもっと大きなものと戦ったりする。その中で自分らを形成する何かに対する逆のアプローチが起きるんです。それは衝突かもしれないし、逃避かもしれない。“Kids and Lost”で描かれているのはそういうこと。これはドイツで暮らすことではじめて感じた違和感に端を発していて、自分を形成してきた日本社会に対する逆のアプローチが含まれているのかもしれません。

ーやはりドイツでの暮らしで得た経験が大きいのですね。
三船:ベルリンに引っ越してよかったのは、そこまで社会に帰属する必要はなくてもっと個人的な気づきに集中してもいいんだ、と気づけたこと。日本には社会のマジョリティが持っている価値観に合わせて、自分のかたちを変えられた人が評価される側面もあるなと感じていて。
吉祥丸:僕も以前ポートランドに住んでいたことがあるのでその感覚はすごくわかります。日本で生きていると、社会が「当たり前」とか「みんな」という概念を押し付けてくる。でもその範囲ってものすごく狭いんですよね。もともとは、みんなが気持ち良くすごすために良かれと思ってやっていたことだと思うんですけど。
三船:そうそう。帰ってきてびっくりしたのは、電車とか駅でドアの前に立つなとか、携帯を見るなとか、日本って人のコントロールをしようとするメッセージが圧倒的に多いんです。いちばん驚いたのは、家の裏の公園で幼稚園の先生が子どもを一列に並べて、「木に登ってはいけません、石を投げてはいけません」ってみんなに言い聞かせていたこと。ベルリンにはそういう光景はなかったんですよね。
ー移住の前に経験したコロナ禍の3年間も大きな衝撃だったかと思います。それが明けて今ようやく展示やライブも昔のように開催できるようになりましたが、どんなことを感じていますか。
三船:コロナで3年くらいマスクして緊張しながら僕らの音楽を聴いてくれるお客さんを見てきて、それをぶち壊そうともしてきたけど、今こうしてまたみんなが触れ合える世界になったときに感じるのは、みんなライブのようにフィジカルで繋がった場所がないと幸せを感じられないんだなってこと。僕としてはあらためてそこにフォーカスしたいという思いがあります。
吉祥丸:デジタル上でのコミュニケーションが当たり前になってきている中で、当然そこから受ける恩恵はありつつも、どこかで私たち人間はアナログでフィジカルな繋がりを求めているようにも感じます。たとえば、ある場所に物理的に「家」が存在していたとします。ある人にとってはその空間は「House」でしかないかもしれないけれど、今私たちとって必要なのはもっと手触りを持って繋がることのできる「Home」という概念なのかもしれません。全員が「いい音楽だね」「いい写真だね」という作品をつくろうとするのではなくて、今それぞれがフィジカルに繋がっている「Home」という概念や近くのコミュニティーに対して、問いを投げかけたり、対話をしていくことが、表現活動をしていくうえで今僕らがすべきことだと思うんです。
三船:人間である以上、そういう手触りのある繋がりはなくてはならないと思うんですよね。だから吉祥丸さんのようにギャラリーをつくって人をフィジカルで繋いでいることにすごい憧れます。ROTH BART BARONもギャラリーこそ持ってないけれど、誰でも参加できる「パレス」という、僕らを支えてくれるサポーターのコミュニティを持っていて。グッズのデザインやライブの物販はパレスのみんなが手伝ってくれてるんです。たしかに「Home」というのか小さい街なのか、もはや村をつくっているイメージがありますね。
