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宮﨑駿が「13個の穢れていない石」に託した思い。『君たちはどう生きるか』解説

2023.8.14

#MOVIE

©2023 Studio Ghibli
©2023 Studio Ghibli

二つの『君たちはどう生きるか』

本作は、不思議な世界の冒険を通して、主人公の少年、牧眞人の成長を描くファンタジーだ。舞台は、第二次世界大戦下の日本。冒頭、彼が階段を駆け上がり、空襲の中を走り回る冒頭の躍動感だけでも、宮﨑駿の新作に出会えたという一種の感動を覚える。しかし、その空襲が原因で、母親は亡くなってしまう。眞人は、父と共に、母親の実家の屋敷へと疎開する。

父の再婚相手は、母の妹で顔が瓜二つの夏子だ。眞人は、彼女を受け入れることができない。学校では地元の子供と喧嘩をし、その帰りに自らの手で頭を傷つける。傷について聞かれても真相を言うことができない。

その後、失踪した夏子を探すために、眞人は敷地内にある奇妙な塔に足を踏み入れる。そして、喋るアオサギに誘われ、異世界へと入っていく。そこでの出会いを通じ、彼は自らの「悪意」を自覚した上で、友を作ることを望み、夏子を母さんと呼んで受け入れる。

眞人の変化のきっかけになったのは、母が遺した吉野源三郎の同名小説だった。映画の内容とは関係がないとされていたものの、この二つは共通点が多く、小説はこの映画に強い影響を与えている。小説のコペル君は叔父との対話を通じて、自分中心のものの見方を脱却する。また、劇中で眞人が涙を流したページは、コペル君が自らの過ちを認めた上で友人たちと仲直りをした場面だ。本作は、主人公が冒険を経て、自らの悪意を受け入れ、他者や世界との関係を見つめ直す物語だとまずは言えるだろう。

もう一つ本作に強い影響を与えたと思われるのが、ジョン・コナリーの『失われたものたちの本』(2006年)だ。第二次世界大戦下のイギリスが舞台の同作。母を亡くし継母と暮らす少年は、死んだはずの母の声に導かれ異世界に飛ばされる。そこで、木こりに出会い、元の世界に戻るために旅をする。その一方で、奇怪な「ねじくれ男」が少年を惑わせる。こうして物語を大まかに要約しただけでも、『君たちはどう生きるか』との共通点を見出せるだろう。

また、本作の塔や案内する鳥、独善的な王といった要素は、「スタジオジブリの原点」ともされ、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)をはじめとした宮﨑駿監督作品にも影響をもたらしたポール・グリモー監督『王と鳥』(1980年)、その別バージョンの『やぶにらみの暴君』(1952年)も想起させた。

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