INDEX
党派性を超えるサブリナ・カーペンター
伏見:最近の新譜の話からすごく広がってしまった……。新譜であと名前が出ていたのは、サブリナ・カーペンター『Man’s Best Friend』ですね。
つやちゃん:よく聴いてます。アルバムのアートワークも物議を醸したじゃないですか。歌詞のちょっと下世話な感じとかを聴いていても、近年フェミニズムやクィア理論、ポリティカルな意識が進んで、それが複雑化してハイコンテクストになっていった中で、ああいうあっけらかんとしたサブリナの歌詞がスコーンと響くみたいな、そういう受け方をしているところがあるんじゃないかなと思っています。

伏見:そうですね。揺り戻し的なところもある。ただ、すごくその辺のバランスを取っている感はあって、フェミニズムを踏まえていないかといえば、しっかり踏まえているんですよね。“My Man on Willpower”という曲は、自己啓発に夢中で私のことを放っている彼氏に対する嫌味みたいな曲で、「私が隣りにいるのに、あなたは目覚めてる」という歌詞がめっちゃ面白いです。どちらかというとリベラルに親和的な男性のダメさを描いている。
伏見:この前もトークイベントでそういう話になったんですけど、若い人は例えばLGBTQに関してはすごくリベラルな視線をふつうに持っているんだけれども、政治的な党派性には絡められたくないという感覚がある。そういう空気感と、サブリナのいまのあの雰囲気は、すごく合致したんだろうなと思いますね。
清家:SNSだと、政治的なものって、すごく極端な人たちが燃えている風景が目に入るじゃないですか。その印象が残っちゃうから、自分の考えがリベラルでも「左翼なんだね」と言われると「あ、いや、あの燃えてた人達とは違いますけど」みたいに思っちゃうのかな、と。あと、「やたら政治の話をするのはやばいやつだ」みたいな意識もありがちなので、やばいやつ認定されたくないけど、ふつうに考えていることはフェミニスト的だったり。
伏見:党派性で罵りあうようなところから逃れたいという気持ちは、正直僕もかなりあります。かといって、政治性がない状態でいることはできない。政治性はあっても党派性じゃないところに行く、というのは、共感するし、サブリナのやっていることも分かる感じがしましたね。