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ポスト「brat summer」の展開
—さて、下半期の気になったトピックとして、キムラさんと松島さんから事前に「ハイパーポップ(※)を取り巻く状況の変化」を挙げていただいてたんですけれども、キムラさんから解説いただけますか?
※ハイパーポップ:EDM等のダンスミュージックにエモラップ、ロックの要素を取り入れた音楽ジャンル。自主制作とインターネットコミュニティによって発展してきた背景があり、インディペンデント / オルタナティブ精神や、ナード(≒オタク)あるいはマイノリティのアイデンティティとの結びつきが強い。近年、チャーリーXCX等の躍進によって、シーンの外にも広く存在が知られるようになり、また、メジャーアーティストの作品にもその音楽的特徴が取り入れられるようになった。
キムラ:はい。チャーリーXCXが『brat』というアルバムを2024年に出して、いわゆる「brat summer」(※)のムーブメントが広がり、2025年に入ってそのミームの影響力はより加速したと思うんですけど、4月に開催された『コーチェラ(Coachella Valley Music & Arts Festival)』のステージでチャーリーXCXがbrat summerの終わりを宣言しましたよね。
※brat summer:『brat』の音楽とともに、そこで提示された「brat(=悪ガキ)であることを肯定し、周囲を気にせず生きる」という価値観が支持を集め、『brat』のアートワーク(緑のカラー)やファッションスタイルが多くの人に参照されたり、インターネット上で拡散された。その社会現象 / ムーブメントを指す。
キムラ:それで、チャーリーXCXの次作として、来年公開予定のエメラルド・フェネル監督映画『嵐が丘』のサウンドトラックから2曲が先行リリースされているんですけど、それはもう全然『brat』のような「クラブでひたすらダンスをしよう」というモードではなく、シアトリカルに練られていて、めちゃくちゃハイコンテクストな仕上がりになっているんです。
松島:The Velvet Undergroundのジョン・ケイルが参加してるんですよね。びっくりする組み合わせではありますよね。
風間:そうそう、“House”という曲ですよね。ジョン・ケイルが入ってるけど、ジョン・ケイルがこれから重視されるわけでもなさそう、というところに、brat summerが終わった感じがあります。いま、ポップスのバズゲームから降りるアーティストが多く見える中の、動きのひとつというか。
キムラ:はい。チャーリー自身『brat』のムーブメントによって、もちろん得たものも大きいけれども、同時に疲弊して失ったものも多いと思うんです。上半期の座談会でA.G.クックとの方向性の違いを話しましたけど、今回の先行曲を聴いて、チャーリーはPC Music的な部分を取り戻した感じもしたんですよね(※)。雑に言うと、「これまではクラブでずっと遊んでたけど、ここからスタジオに戻ってもう一回作品作るぞ」という感じを受けました。
※PC Musicは、チャーリーXCXと長く共同作業を行ってきたA.G.クックが主催するレーベル。キムラは2025年上半期に「当初からのオルタナティブ性を堅持するA.G.クックに対し、大衆化していくことを引き受けるチャーリーXCX」という対比を指摘していた。
松島:「brat summer以降」についてだと、韓国でポスト『brat』的なハイパーポップのアーティストがたくさん出てきていて、いまK-POPとは別のインディペンデントな活動が目立ってきているのかなと思っています。その代表的な存在でEffieというアーティストがいて、この周辺で新しい流れがまた出てきている印象でしたね。
松島:あと、Yvesっていうアーティストがいるじゃないですか。何のグループにいたんでしたっけ?
キムラ:えーと、チョン・ビョンギがプロデュースしていたLOONA(今月の少女)ですね。
松島:あの人のソロ活動も、チャーリーXCX的なところをリファレンスにしてるのかな? となんとなく感じます。brat summerがまいた種が、今後いろんなところでローカライズされていくんじゃないかなと思ってますね。
風間:確かにそうですね。そこはすごく見える。
松島:中南米でインディに活動してる人たちも、ハイパーポップ的な音像とレゲトンを組み合わせたものを出したりしていて、ヨーロッパやアメリカ以外の動きが今後面白そうだなと思いますね。