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NEWS EVENT SPECIAL SERIES
Stronger Than Pride

始めての苫小牧探訪。山塚リキマルが見た、地元を愛する不良たちの文化

2024.10.8

#MUSIC

腰抜けに思われることなく、人々の気持ちを汲むには、特定のリズムを持っていなければならない。

ジョージ・クリントン

ぼくにとってかけがえのない人間とは、なによりも狂ったやつら、狂ったように生き、狂ったようにしゃべり、狂ったように救われたがっている、なんでも欲しがるやつら、あくびはぜったいしない、ありふれたことは言わない、燃えて燃えて燃えて燃えて、あざやかな黄色の乱玉の花火のごとく、爆発するとクモのように星々のあいだに広がり、真ん中でポッと青く光って、みんなに「ああ!」と溜め息をつかせる、そんなやつらなのだ。

ジャック・ケルアック

人生初めての苫小牧

苫小牧に行ってきた。一泊二日の取材旅行であった。僕はチャキチャキの道産子だが、じつは苫小牧の地に足を踏み入れるのはこれが初めてだった。というと驚かれる人もあろうが、道民っていうのは結構そんなもんである。何せ日本の国土の二割強は北海道なのだ、それほど広大な島を網羅している人はまれで、意外と行ったことない街ってのがそれぞれあるものなのだ。そして北海道の地域差というのはすごくて、たとえば市街地でシカやキツネを見かけると札幌民は軽くはしゃぐが、帯広民とか旭川民は「ふーん」ぐらいの感じだ。稚内民ならリアクションさえ取らぬだろう。気温や気候、喋り方までも違ったりするし、なんというか北海道はひとつの「国」なのだ。地域ごとのグラデーションがマジで半端ないのだ。この振れ幅のデカさは単に土地が広いというだけでなく、ほぼ全員が移民という特殊な成り立ちもおおいに関係していると思うが、まぁとにかく人生で初めて苫小牧に行ったのだ。結論から先に申し述べるが、楽しかった。不当なまでに楽しかった。「こんなんが仕事でいいのかな?」という疑問が幾度となく襲ってきた。そしてそのたびに「いいんだよーん」と言った。ここではその一部始終を語っていこうと思う。

新千歳空港に着いたのは13時頃だった。空港に着いてまず初めに思ったのは「今日ってどういう系の取材なんだろう?」ということだ。僕は「苫小牧で取材をする」ということ以外、事前に一切何も知らされていなかったし、空港に着いた後どうするのかさえ解っていなかった。どうしようかな、もういっそサッポロクラシック(北海道限定の神美味いビール)を飲んでしまおうかなと葛藤していると、ほどなく加藤君が迎えに来てくれた。いそいそと車に乗り込み、「今日ってどういう系の取材なの?」と聞いたら、加藤君は「苫小牧で俺がよく行ってる店をハシゴしまくる街ブラ系ロケって感じですね。苫小牧の魅力を発信する的な」と答えた。「ということはつまり」「最終的に飲み歩きです」。

OK、のぞむところだ。

山塚リキマル(やまつか りきまる)
SF(ソウルフル)作家/テンション評論家/プロ遊び人。‘22年と’23年にリリースした自主制作誌『T.M.I』が歴史的小ヒットを記録。ヤングラヴというR&Bバンドで語りを担当するほか、ネオ紙芝居ユニット・ペガサス団でも活躍中。

ウトナイ湖

まず最初に行ったのはウトナイ湖だった。国指定の鳥獣保護区でありラムサール条約の登録湿地にもなっているという、かなり有名な湖らしい。結構デカかったが、深さは膝丈ぐらいしかないそうだ。

ウトナイ湖

で、ラムサールのお墨付きというだけあって、とにかく鳥がめっちゃいた。そして至るところに白鳥のうんこが散乱していた。白鳥のうんこに注意を促す旨のプラカードさえあった程だ。加藤君は白鳥のうんこをまじまじと見つめながら「ふーむ、鳥のわりには結構ちゃんとしたうんこしてますね。人間っぽい」と言った。そしてほどなく、本当に白鳥とエンカウントした。奴はめちゃくちゃ人間馴れしているのかこちらには一切目もくれず、ひたすらに芝生にはえたクローバーのみをモリモリ喰っていた。

それから僕たちは周囲を散策し、長渕剛のスタジオにはトレーニングルームがあるとか、堂本剛はアンプの上に石を置いているらしいとか、そんなウワサ話をしながらふたたび車に乗り込んだ。

苫小牧市民会館

次に行ったのは『FAHDAY』の会場となる苫小牧市民会館だ。1968年につくられた由緒ある建物だそうだが、シンメトリーかつ奥行きがあって、壁材のパターンや窓のかたちには微弱なSF感(たとえばスタートレックのような)が漂っている。

1400名を収容する大ホールの音響はすばらしいそうで、矢沢永吉や山下達郎なども使ったことがあるのだという。ヤザワは知らんがヤマタツといえばとにかくハコの音響に厳しい事で有名だ。「音が悪いから」という理由で武道館ライブを拒み続けているあのヤマタツが出ているのだからして、たぶん相当にええ感じなのだろう。老朽化が原因で建て壊しが決まっており、『FAHDAY』が最後をしめくくるイベントになるという。駐車場をぼんやりとふらふらしながら、加藤君は『FAHDAY』の会場がここに決まるまでの経緯と、それにまつわる心情を話してくれた。その話はなかなか強烈かつ複雑で、僕は「やばいね」と何回も言った。そしてそのたび加藤君は「やばいっすよね」と不適な笑みを浮かべた。「わかりやすく敵がいた方が、戦いがいがある」と加藤君は言った。

加藤修平(かとう しゅうへい)
NOT WONK/SADFRANK。1994年苫小牧市生まれ、苫小牧市在住の音楽家。2010年、高校在学中にロックバンドNOT WONKを結成。2015年より計4枚のアルバムをKiliKiliVilla、エイベックス・エンターテインメントからリリース。またソロプロジェクトSADFRANKとしても2022年にアルバムをリリース。多くの作品で自らアートディレクションを担当している。

ELLCUBE(ライブハウス)

それからELLCUBEへ行った。ここが苫小牧で唯一のライブハウスなのだそうだ。取材前日まで行われていた野外音楽フェス『活性の火』の撤収作業まっ只中で、疲れ顔のスタッフの方々が右往左往している中をちょっとだけ見学させてもらった。フロアもステージも結構広めで、かつてNOT WONKの企画で368人入れたことがあるそうだ。そこはかとなく名バコの雰囲気が漂っており、加藤君は「北海道で一番音がいいハコだと思う」と言った。

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