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フェアネスから生まれる説得力
ーこの本を読んでいても思ったんですが、宇多丸さんは何か知識を話す際に、その出典を明らかにしますよね。さも自分が発見した手柄のように話す人も多い中で、そこは意識されているのかなと。
宇多丸:本当はもっと細かく明記したいところではあるんですけどね。映画評でも、「ここに載っていたこの記事からの情報です」ということは言うようにしてます。
人生相談の一刀両断型の人とそうじゃない人の差に通じるかも知れないですけど、全てを知っているかのように振る舞うことを求められる人もいると思うんです。で、そういう人が人気があったりする。でも、それはどう考えても嘘じゃん。最初から全てを知っている人なんているわけない。だから、これは誰かから得た情報、ここからは僕の考えですと、本来は切り分けるべきだと思うんですよ。フェアネスが重要というか。世の中全体がフェアネスをクリアにする方向に進んでいるとは思います。

ーフェアネスを重視すると、どうしても言葉数は多くなりますよね。出典についてもそうだし、補足も多くなる。取り扱うシチュエーションも限定せざるを得ないでしょうし。ズバッと一言では回答できなくなります。
宇多丸:万人にとってのフェアネスというのも難しい問題ですしね。僕らが無意識に見ないことにしていたり、抑圧してしまったりしていることも絶対あるから、大変不都合で不愉快な事実も出てくるわけです。だから「めんどくせえな」と思う人も、バックラッシュも出てくる。ただね、大筋では世の中はいい方向に進んでいるとは思いますよ。
ー「タイムスリップできるとしたらどの時代に行きたいか」みたいな妄想がありますけど、そこでちゃんと生活するんであればどの過去にも戻りたくないなと思います。
宇多丸:誰だったか有名な俳優も、タイムスリップするなら「最低限ワクチンが発明されて以降」って言ってましたからね(笑)。その意味では、人権という概念が確立されたのもつい最近なわけで。
ーフェアネスはどんなコミュニケーションに対してもキーワードになりますね。
宇多丸:要するに、答えが出ない、その都度考えるしかないことだから。さっき言ったような終わりなき学びもあって、それ自体が刺激だから、それを面白いと捉えればいいと思うんですよね。
ー「この人にはどんなふうに接すればいいかわからない」という逡巡も悪いものではないんだと。
宇多丸:そうそう。個別の他者がいて、この人にどんなアプローチをするべきか考えるのは、別に当たり前のことじゃないですか。「部下」「女性」「年下」みたいな、属性だけで成り立ってる人間がいるわけじゃないから。個別に考えていくべきなんだけど、一応ガイドラインくらいは共有しておきましょうかというのが今の段階で。
でも、一部の人はそのガイドラインを「ルール」だと思っているんですよね。だからめんどくさくなっちゃう。
フェミニズムにしても議論の歴史があるのに、日本ではメジャーな場所で正面から扱われてこなかったせいか、いつしか「フェミ」という略語自体がSNSでは揶揄的に使われたりしていて、あまりの安易さにびっくりしちゃいますよね。だからその場その場で抗っていくしかないなと。フェミと略している人には「今は揶揄的なニュアンスを含んで使われることが多いから、そういうつもりじゃないなら、ちゃんとフェミニズムと言ったほうがいいかも」みたいに、一個ずつやっていくしかないんじゃないですかね。

『ドキュメンタリーで知るせかい』

宇多丸、伴野智
装画:西村ツチカ
ブックデザイン:大島依提亜(カバー、帯、表紙、本扉)
四六判 並製 (天地188mm x 左右128mm x 束幅22mm) / 432ページ / 420g
発売日:2025年08月20日
ISBN / Cコード
978-4-89815-589-9 / C0036
定価:3,080 円(本体 2,800 円+税)