精神科医として病院を訪れる人々の話を聞き、ラッパーとしてステージに立って「調子どう?」とオーディエンスに尋ね、怪談作家として日本中の人々の信じられないような話を蒐集する。
1年365日公私問わず色々な方向の話を聞きまくり、果ては“人の調子聞いてばっかりの人生”という曲までリリースしているのが、Dr.マキダシ。
まさにこの連載にうってつけ。今すぐ話を聞くしかない。
今年、精神科専門医、精神保健指定医という2つの資格を取得、主催するクリエイティブチーム「ドクターインダハウス」としてアルバムリリース、『稲川淳二の怪談グランプリ2025~全国最恐怪談師決定戦~』では見事優勝と、どの分野においても成果を出しまくるイカついDr.マキダシ。
だが、その根底には精神の健康に対するこだわりと、他人と自分への深い優しさがあった。
マキダシさん、人の調子聞いてばっかりの毎日ってどんな感じですか?
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精神科、心療内科、カウンセリングの違いって?
ーまず、ものすごく初歩的なことからお聞きしたいんですが、実は精神科と心療内科の違いがよくわかっていなくて、そこを教えていただけますか。
マキダシ:精神科と心療内科というのは境目があってないようなものではあるんです。僕は精神科の病院で働きつつ、心療内科もやってるクリニックでバイトもしてるので。
強いて言うなら、心療内科には「内科」が入ってますよね。精神状態と結びついて起こる身体症状にフォーカスするんです。例えばストレスでお腹を下しやすいとか、頭痛がするとか。
精神科はさらに一歩踏み込んだ、脳や精神領域の病気を扱うようなイメージです。極度の躁鬱、妄想など現実的な見当ができなくなっているレベルの人を診ることもあります。精神科には救急もあって、今すぐに治療しないと他人や自分を傷つけてしまうような人が運び込まれてきて、即座に対応するようなこともあるんです。

ラッパー / 精神科専門医&指定医 / 怪談師 / 作家。
1990年青森県青森市生まれ。東京都在住。曽祖父の時代から続く青森の医師家系で育つも、自由を求めてヒップホップの道に。結果、夢も地元も捨てきれず、精神科医ラッパーとして東京と青森を行き来するようになる。ライフワークの奇談集取が高じて、『稲川淳二の怪談グランプリ2025』で優勝。竹書房から『トラウマ怪談録 精神科医が語る本当に怖い話』を出版。また、ラップの歌詞制作を通して自己と向き合う「Hiphop Therapy」を日本で初導入したワークショップの実施や同研究に取り組む。RAB青森放送ラジオD2『人の調子聞いてばっかりの土曜』パーソナリティ。
ーでは、何か精神的な不調があった時は、どちらに行っても問題ないんですかね?
マキダシ:そうですね。心療内科のクリニックにかかって、あまりにも専門的な治療が必要だということになれば精神科を紹介するということもあるので。
ーカウンセラーと医師にはどういった違いがあるんでしょう?
マキダシ:例えば内科のお医者さんだったら、問診や聴診でわからないことに関してCTやMRIを撮ったりするんですよね。精神科医もその人の成育環境や特性、うちに秘めたものはすぐにはわからないんです。日常診療の外来だと時間も限られますし。そういう時は心理士の資格などを持ったカウンセラーさんにお願いして、しっかりセッションの時間を設けて深く専門的に聴取してもらうことがあります。内科医とCTなどの技師と同じ関係ですね。
ーなるほど。協力関係なんですね。
マキダシ:「今回は成育歴について聞いていきましょう」みたいな感じでカウンセラーさんにオーダーして、その結果を受けて解釈して、という感じで進めていきます。小さいクリニックでもカウンセラーを紹介することはすごくよくあるので、そこも含めて何か不調を感じたらお近くのクリニックにまず相談するのが一番いいと思います。

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誰でも治療のラインに乗せればいいというわけではない
ー誰かの相談に乗っていると、精神的に相当つらそうだなと感じることがあるんです。そういう時に「鬱なんじゃない?」なんて軽々しく素人診断しちゃいけないというのは、徐々に常識になりつつあるとは思うんですけど、ではどこまで踏み込んでいくのか難しいなと思うんですよね。それこそ、「クリニックに行ってみれば?」と言っていいのかどうか。
マキダシ:すごく難しいですよね。僕も人生相談に乗ることはありますけど、まずは相手がどこまで求めてるのかを見極めるようにしてます。僕個人としてなのか、医者としてなのか。個人として話を聞くときは「私はこの病気ですか?」と具体的に病名を出されたとしても、「否定はできないけどちゃんとクリニックに行ったほうがいいよね」という感じで答えるようにしてます。お茶を濁す感じになっちゃいますけど、どうしてもその場ですぐには判断できないので。
医者としての発言となるとすごく責任が発生しますから、診療の場で話を聞くのが適切だと思いますし。診療を受けたいのであれば、クリニックに来てもらうこともあります。でも、治療のラインに乗せることがその人のためになるかどうかも考えなくてはいけないので、複雑ですね。
友達から相談を受けたとして、そこから主治医と患者という関係性になると制約が生まれることもあるんです。だから、必ずしも僕が診るのがベストとも限らない。診療への誘導もケースバイケースで悩むんですよ。
ー親密さが足枷になることもあるんですね。前回お話を聞いた西寺郷太さんも「親切にしてた人が、それを止めた時にめちゃくちゃ揉めるらしい」とおっしゃってました。治療を進める中でなかなかうまくいかなくなると、今まで近い関係性だった分、反転しちゃうこともありそうです。もう友達には戻れないというか。
マキダシ:それは絶対にあると思います。だから、親身に話を聞くし精神的なことの知識もあるけど、あくまでもただの友達、というのがベストな関わり方なのかなと思いますね。ただ、その関係性を100人と持つことは難しいので、自分が責任を持てるキャパシティを意識します。ステージ上でならいくらでも適当なことを言えるんですけど。
ーラッパーと医師の職業倫理の違いですね(笑)。
マキダシ:そうです(笑)。自分の人生の中で「医師としてはこれくらいだったらちゃんとやれる」ということを常に調節してる感じです。でも、ラッパーとしてMCバトルに出ていた経験は診療に活かされてるんですよね。患者さんの中には圧が強い人や、すごい剣幕でくる人もいるんですけど、僕はバトルの現場で慣れているので。大勢のお客さんの前で悪口言われますからね、相当な負荷ですよ(笑)。

ーしかも、バトルでは事前に用意してきたパンチラインをこれみよがしに繰り出すと冷めるじゃないですか。ちゃんと相手の内容を受けてラップしないといけないから、傾聴しないといけないですもんね。
マキダシ:韻を仕込んでくること自体は悪くないんですけど、出し方が下手だとすぐバレますね(笑)。診療でもある程度決まったことを説明する必要があるんですけど、自然な流れを作った上で話す方がいいと思うんです。そういうことも含めた胆力はバトルで鍛えられた感じがします。
ー人生相談でも「この人、他でも同じこと言ってるんだろうな」と思われたらあんまり良くないですよね。自分なりの決めフレーズみたいなものがあってもいいけど、それだけ言えばいいというものではないと。
マキダシ:そう、ムード作りというか、話の持っていき方が大事になってきますね。