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人生相談の権威は下がったけど、質は上がった
ー最初に相談者の痛みを受け入れるのがとても大事なのかなと思いました。「ここが痛いです」という訴えに対して「気のせいですよ」と返したら診療が成り立たないわけですけど、相談にそうやって答えている人はけっこう多い気がします。
瀧波:うんうん。でも、昔はあんまり相談者に寄り添うことがなかったと思うんですね。私が「こんなに寄り添っていいんだ⁉︎」と思ったのは、雨宮まみさんの人生相談(『まじめに生きるって損ですか?』として書籍化)。びっくりするくらい寄り添っていました。雨宮さんという実例が出てきたことによって、他の人もためらわず寄り添えるようになったんじゃないかという気がしてて。あの連載が始まったのが2010年代前半だったと思うんですけど(※)、そこが分岐点というか、ちゃんと相談者の痛みを受けとめる形が増えていったように思います。
※『穴の底でお待ちしています』のタイトルで2014年からスタート

ーそれまでは、相談に対して「そんなもんは大したことない」という感じで一発かます技法が主流だったような気がします。
瀧波:以前の方がずっと、相談者よりも読者のほうを意識してましたよね。権威的というか。権威といっても社会的に偉いというよりは、サブカルやオシャレのようなちょっと砕けたジャンルで権威とされる人が、雑誌とかで軽妙な語り口を見せつけるようなものが多かったと思います。だから、あまり相談者への寄り添いも求められてなかったというか。今考えると、その頃の人生相談に投稿してた人って、何を期待してたんでしょうね……。
ー自分の悩みが否定されて面白がられるわけですもんね。
瀧波:毒舌系も多かったですし。でも、SNSもまだないから、否定されるにしても有名な人に何か答えてもらえるという価値があったのかもしれない。その価値が暴落したら、「なんでこんなけちょんけちょんに言われないといけないんだ!」という感覚も出てきますよね。そうなると権威的な人よりも、もっと身近なことを書いている人や、同世代のシンパシーを得ている人に答えてもらった方がいいよね、となっていったんじゃないかと。
でも、人生相談自体も権威だったから、今はそれも下がったという感じがしますね。
ー新聞、雑誌、ラジオが舞台だった人生相談が、YouTubeやPodcastで誰でもやれるようになりました。
瀧波:質問箱やマシュマロ、Instagramのストーリーズなど、匿名のメッセージに答えるサービスが出てきたときはけっこうびっくりしました。相手が有名人じゃなくても、相談を送ってそれに答えるということをみんなカジュアルに行っているし、だからといって質が下がったわけじゃないという。全体的には、権威性が下がって質が向上したんだと思います。
古い感覚のまま書いている人は今も寄り添えていないので、昔ながらの媒体に載ってる人生相談を読むとギョッとすることがありますよね。書く人も書く人だし、そのまま載せる人も載せる人だなと。