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その選曲が、映画をつくる

映画『ペパーミントソーダ』の音楽が映し出す、1963年のフランス社会とその青春

2024.12.11

#MOVIE

並列される、個人的なエピソードと政治的なモチーフ

1960年代前半のフランスといえば、ド・ゴールの第五共和政下で飛躍的な経済発展を遂げた一方で、なによりも、アルジェリア戦争に伴う様々な事件と、その爪痕によって社会全体が大きく揺動していた時期にあたる。こうしたムードは、映画の全編を静かに貫いており、フレデリックが次第に政治へと目覚めていく描写に並々ならぬ説得性を与える効果も発揮している。

中でも、彼女のクラスメイトのパスカルが、前年に自身の目で見たというデモと、それに対する警官隊の暴力事件(*)について授業中に語るシーンには、特に鮮烈な印象を抱かされるだろう。他にも、画面に目を凝らしてみると学校の壁に極右団体OASの名が落書きされていたり、さらには、人種差別主義者と左派の衝突が直接的に描かれていたりと、各所に政治的なモチーフが頻出するのだ。

*1962年2月8日、アルジェリア独立阻止を標榜するOASとアルジェリア戦争に反対する左翼勢力のデモをパリ警察が暴力で封じこめ、最終的に9名が亡くなった「シャロンヌ地下鉄大虐殺事件」を指す。前年1961年には、民族解放戦線によって組織されたアルジェリア人によるデモが警察の暴力によって破壊され、200人から300人にわたる同国人が殺害されるという「1961年パリ虐殺」事件があった。

次第に友情が芽生えていくフレデリックとパスカル(コリンヌ・ダクラ / 右)。

一見すると相反するようにも思われる思春期ならではの個人的なモチーフと、そうした政治的な描写を、対立的あるいは扇情的に扱うわけではなく、少女たちの過ごす日々の中で連続して起きる出来事として、あくまで並列に描き出しているということが、私には特に重要に思える。家庭で過ごす何気ない時間の中でジョン・F・ケネディの暗殺のニュースがもたらされたり、上に述べた通り、授業中の他愛もない会話から身近でおきた虐殺の話へと展開していくのだ。

その経過の中で、キュリスはこれみよがしに演出の方法を変えたり、カメラやBGMを感情的に動かしてみるようなこともしない。ただ紛れもない「あの頃の出来事」として、思春期の逡巡を構成する「個人的な」エピソードの中へと配置していく。彼女たちの体験している世界の中では、数ある経験は、いまだ明確な場所付けが難しいものとして、混在しながら存在する。

無垢な戯れと大人への背伸び。憧れと怯え。愛情と軽蔑。別れと出会い。私と他者。揺りかごのような世界から、鉄火場のような世界へ。それらがいまだ不可分な若い心のありようを描くにあたって、おそらくこれ以上に巧みな方法はないように思われるし、あえて穿った風なことをいえば、そうした「若さ」のあり方は、より一層の政治的な混乱状態へと向かっていく同時代のフランスが抱えていた「若さ」と、のちの「革命」への呼び声を描き出しているように思えてならないのだ。

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