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思春期の心象風景と社会状況の巧みな描写
なにか大きな事件が巻き起こるでもなく、淡々と物語が進んでいくように見える本作だが、途中に挿入されるエピソードの数々も実にユーモアと機微に富んだもので、決して飽きさせることがない。また、ファッションやヘアメイク、美術等、徹底した細部への美意識も驚くべきもので、それゆえにこそ、ふとした瞬間に訪れる登場人物たちの心象風景の変化にも、切ないまでのリアリティと深遠な情感が宿っている。「クラスメイトが皆そうしているから」という理由でささいな品物へ強いこだわりを示すアンヌの姿や、恋人との旅行の許しを得ようと発奮するフレデリックの姿に、かつての自分の姿をつい重ね合わせてしまう観客も少なくないはずだ。

一方で、ほろ苦いノスタルジーを誘うそうした描写の傍ら、1960年代前半のフランス社会の状況を強く意識させるエピソードが散りばめられているという点も、本作の重要な魅力の一つだろう。
映画の冒頭部からして示唆的だ。新学期の始業式が終わった後、ある生徒が校庭にぽつんと居残り、一人で泣いている。底意地の悪い教頭が叱責混じりに声をかけると、どうやら「オラン」からやってきた転入生だということがわかる。だが教頭は、その地名を解せず、引き続き叱責をやめない。フランスの現代史に明るい人ならばピンとくるはずだが、おそらくこの女子生徒は、旧宗主国フランスとの長年の戦争状態を経て前年に独立したアルジェリアの都市=オランからやってきた経済移民の一人なのだ(あるいは、戦時中フランス側に協力したことで差別の対象となったアルジェリア人=「アルキ」の家の子供なのかもしれない)。
